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バスルームの中では、バスタブのお湯の温度が高いせいか湯気が立ちこめ、それが室内を温めているように感じられた。湯気が広がり、部屋全体がほんのりと温かみを帯びているようだった。
そこで私とユリは出席するパーティーについての話し合いを続けていた。
「先程決まった、ゴールドキング公爵家が開くパーティーにだけ出席して、その他は適当な理由をつけて欠席するという結論に不満があるということですね?」
「最悪の場合はそれしかありません。ですが、やはり、おとう…いえ、陛下なら、何かと理由をつけて、私とユリを引き離そうとするに違いありません。」
ユリの返答を待っていると、突然私を膝から降ろして、バスローブを脱がそうとしてきたので、何事かと思って見上げると、ユリはとても怒った顔をしていて驚いた。
「ちょ、ちょっとユリ?どうしたのですか?また監視の目でもつきましたか?」
あれよあれよと湯浴み用の薄着だけになってしまって、どうすれば良いのかわからず困惑して固まってしまう。彼の奇行の理由がわからず、やはり監視の目でもついたのだろうかと考えているとユリ自身もバスローブを脱ぎ捨てた。ユリは裸になったが、ゆけむりでほとんど隠れていて見えない。そして、私を抱き上げて、湯船につかった。
「こうして、一緒に誰かと風呂にはいる経験は初めてですか?」
「はい?そ、それはもちろん。初めてです。」
「回帰前も?」
「もちろんです。こんなおかしなことをするのはユリだけです。」
「すみません、アナタを独占したい気持ちが止められませんでした。先程、アナタは陛下をお義父様と言い間違えましたよね、それを聞いて、アナタにアナタは俺のものだと分からせたくて…。」
(何いってるのーーーー!?)
「あの…本当に幼女趣味はないのですよね?」
彼は10歳からの私しかしらないはずだ。熟しきれていないこのつるぺたな体に欲情したり、異常なくらいに私に恋をしている神経を流石に疑わざるおえない。
「ありません。例えアナタが歳をとって皺くちゃになっとしても変わらず愛せる自信があります。」
「やはり分かりません。どうして会ったばかりのアナタが私にそこまでの感情を抱いてくださっているのかが。」
「恋愛に理由なんていりません…と言ってしまいたいところですが、メイの置かれている状況を考えると流石に理由をつけないと俺まで疑われてしまいますね。ですが、ワガママを1つ言ってもよろしいですか?」
「え?…はい。」
「理由を言う変わりに、俺の欲を満たす手伝いをしてくださいね。」
「え!?ま、まぁ…納得がいく理由だったら手伝いますわ。」
ユリと私はザバッという音を立ててお風呂から上がった。
脱衣室には何故かミレーヌが控えており、私の体や髪を丁寧に拭いてくれて、再びバスローブを綺麗に着せてくれた。湯船から出た後、湯気に包まれた脱衣室で、ミレーヌの手際の良い動作が心地よかった。身体の汗や湯気を拭き取られると、清々しい気持ちになった。ユリの奇行に戸惑いながらも、ミレーヌの存在が少し安心感を与えてくれた。
「ユリドレ様、差し出がましいかもしれませんが、どうかメイシール様の体に無理をさせないでください。」
「分かっている。」
「ミレーヌ。心配してくれてありがとう。私は大丈夫。…それと、外の噂を鵜呑みにしないで。いつかちゃんと本当のことを話すから。」
「畏まりました。それでは失礼致します。外の者には再び房時が始まったと伝えておきます。」
ミレーヌは頭を下げてから部屋を出て行った。
「よくできた侍女ですね。」
「えぇ。ミレーヌは…最初の人生の時に私を庇って命を落としてるの。だから一番信頼できる侍女よ。」
「なるほど。それは確かに信頼できますね。」
ユリは自然な動作で私を抱き上げ、ベッドに運んでゆっくりと寝かせた。そして、私の隣に寝転がった。
それからユリは「最初から話しますね。」と言いながら、自身の過去を話し始めた。
異国出身のユリの母親はもともと情報ギルドの長をしていて、途中でレッドナイト公爵に見初められ、無理矢理結婚することになったそうだ。嫌いな夫の子供を産まされて、不幸せだったユリのお母様は自分が不幸なのに、ユリが幸せに育つ事を拒み、じっくりと感情を奪うような育て方をしたそうだ。
そしてユリが10歳になった頃の精密な健康診断で、ユリは結婚をしても子供を作ることができない体だという事を知った。簡単に例えるとユリはライガーのような存在だ。異国人とホワイトホスト国では体の作りが異なるようだ。
そのため、両親は時が来たらユリを亡くしたことにして、代わりに分家の子供を養子にし、その子を公爵家の跡継ぎにしようと考えた。一方で、ユリには情報ギルドの長として生きてもらおうとしていた。
ユリは少年時代から、情報ギルドの手伝いや技術を教えこまれていた。成長するにつれて、一人でも任務を遂行できるようになり、ギルドの長を引き継ぐ準備をしていた。その際、彼はブルービショップ家の存在について知ることになった。
それが全ての始まりだった。調査の結果、ユリはブルービショップ家に関する興味深い事実を発見した。その情報によれば、ブルービショップ家の人間は特定の条件下で回帰することがあり、その際には家紋に色が付くということだった。また、現在の当主は異国出身の女性と結婚し、女の子が生まれていることもわかった。これらの情報がユリに希望を与えた。
ユリはブルービショップ家に潜入すると、その場にいたのは自分よりも10歳年下の私だった。その純粋無垢な私の姿を見て、ユリはあきらめたのだった。
けれど、結果的に今、私はユリを選んだ。ユリは再び、絶望が希望に変わり、私が女神に見えているそうだ。自分の子供を宿してくれて、母に壊されても壊れない、そんな理想的な女性が私だったとユリは語った。
「今まで感情を殺し、殺されてきました。アナタに選ばれて、俺の中で何かが変わり始めたんです。感情を抑える必要がないという自覚が生まれ、その結果、もう感情を殺す必要がないという事実にタガがはずれて暴走してしまうんです。」
その理由を聞いて、私はユリの言葉に納得した。彼がこれまで抱えてきた感情の重さや、自らの生き方に対する苦悩を考えると、彼の行動も理解できるものだった。そして、その理由に気づいた私は、彼に対して申し訳ない気持ちになった。
「ユリ、ありがとう。あなたはたくさんの苦しみを抱えてきたのね。私のために、あなたは自分の過去を明かしてくれた。最初は都合が良い女だったかもしれない、私も都合の良い男としてユリをみてた。これからは、ちゃんとユリを…一人の男性として…み、みます。良いですか?」
「みてください。俺の全てを見て欲しいです。頭の先から足の爪先まで…。そして…欲を言うなら、俺を愛して下さい。」
ユリはニタァーっと怪しい笑みを浮かべて、私の上に覆いかぶさった。
(あ、愛が重いわ…でも、仕方ないわね。あと、笑い方に癖があるわね…。暴走しそうな時の笑い方だわ。)
「わ、わかりまし…んっ!」
唇を唇でふさがれた。どうやら彼は暴走してしまっているらしい。また私が彼を刺激してしまうような言葉を送ってしまったようね。
私は彼を受け入れると決めたのだから、もちろんもう受け入れるしかない。
私は彼の首に腕をまわした。
「あぁ…初めて、メイと心が交わっているような気がします…。では約束通り、ご褒美をいただきます。」
「お手柔らかにお願いしますね。」
心に溢れる愛に包まれながらも、思考の山に埋もれる。だが今は、考えずにただ愛を受け入れようと決めた。
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