【メアルーシュ×エルレナ】2P
その夜、私は父に呼び出されて頬をぶたれ、壁に背中を打ち付けてしまった。恐怖が私を支配するかのようだった。父の怒鳴り声が部屋に響き渡り、私はその言葉に震えた。
「よくも…よくもよくもよくも!!!計画が台無しだ!!!レッドナイトが先に求婚状を突き出してきた!!お前が洗脳をかけないからだ!!!どこで何をしておった。」
父は恐い。父に怒鳴られるだけで、体が震えあがる。私はゴールドキング公爵家の当主の娘として生まれた。女に生まれた私の能力は、ほぼ確実に子供に遺伝することはない。それでも、私は…私の能力は父からしっかりと受け継がれ、父を超えるほどの実力があった。レッドナイト家に入って、私の力は磨かれた。こんなにも小さな体でも私は戦う術を知っている。
「お前がレッドナイトの跡取りを手に入れることが、我が家の野望の一つだったのだ。それを…」
父の言葉は怒りに満ちていたが、私はその中に隠された絶望も感じ取った。私が失敗したことで、父の計画は大きく狂ってしまったのだ。
「お父様…申し訳ありません…」私は震えながらも、静かに言葉を発した。
「申し訳ありません、だと?そんな言葉で済む問題ではない!お前の無能さが我が家を滅ぼすのだ!」
その言葉に、私は胸が締め付けられるような痛みを感じた。父の期待に応えられなかった自分を責める気持ちが込み上げてくる。しかし、同時に私は心の奥底で決意を固めていた。
「お父様、私は…」
「何を言うつもりだ、エルレナ!」
「私はもう、あなたの操り人形ではありません。自分の意思で生きることを決めました。」
父の目が怒りに燃え上がるのを感じながらも、私はその視線に屈しないように立ち向かった。私の力を信じて、そして私自身の未来を切り開くために。
「お前…そのようなことを言って…」
「私は私自身の力で、私の未来を選ぶ。それがたとえどんなに困難であっても、私は戦う覚悟です。」
その言葉を聞いた父は、一瞬驚いた表情を見せた。しかし、すぐにその表情は怒りと軽蔑に変わった。
「お前などに何ができる!?出来損ないの女ごときに!!!」父の怒号が響く中、私は冷静にその言葉を受け止めた。
「私は…私は…エルレナ・レッドナイト。」
「何を言っている?とうとう頭までやられたか…。」
「私はもう…ゴールドキング家の人間ではありません。」そう宣言しながら、私は自身の体から雷を生成し、それを鋭い刃物のようにして左右に持ち、父を殺す気で睨みつけた。
「ぬ?まさか私とやる気ではないだろうな?」父は驚きと怒りの表情を浮かべた。
私は一瞬の躊躇もなく、父に向かって突撃した。激しい攻防が繰り広げられ、父の力強い攻撃をかわしつつ、私は何度も刃を振るった。しかし、父の威圧感と力は想像以上で、私は回帰前のようにうまく立ち回ることができなかった。それでも、自身の内に燃える決意は揺るがなかった。
私はレッドナイト家で様々な戦いの術を学んでいた。守ってもらうだけの存在ではなく、ミレーヌさんのように戦えるカッコイイ女性になりたかったからだ。だから無理を言ってミレーヌさんに沢山教わった。お義父様も協力してくれて、情報ギルド長の夫に相応しい妻になろうと努力を積み重ねてきた。
戦いの中で、父の攻撃が私を襲い、痛みが全身を貫いた。しかし、私はその痛みを乗り越えて、再び立ち上がった。父の攻撃をかわしながら、私は自分の中にある力を引き出し、雷の刃を一層鋭く、強く振るった。
「これで終わりです、お父様!」叫びと共に、私は全力で雷の刃を振り下ろした。
その瞬間、父の動きが止まり、驚きと恐怖がその顔に浮かんだ。私の攻撃が的確に父を捉え、彼はその場に崩れ落ちた。息を切らしながら、私はその場に立ち尽くし、全身に広がる痛みと共に勝利の感覚を味わった。
「これで…これで終わりです…。」私は息を整えながら、自分に言い聞かせた。
父の身体が倒れたまま動かなくなり、私はその場に膝をついた。全身が痛みで震え、涙が自然と溢れ出た。長い戦いの終わりと、重荷から解放された瞬間だった。
父の血が滴っていた。
「ルーの仇よ…」
回帰前にルーを殺した父をこの手で殺したかった。それが叶ったはずなのに、心に残るのは虚しさだけだった。
「エリー?」
声がした方へゆっくりと目を向けた。そこにはとても驚いた顔のルーと、ルーのお義父様が黒いボディスーツを着て立っていた。
「どうして来てしまったの?」私は呆然としながらも、彼らに問いかけた。
ルーは一歩私に近づき、力強く抱きしめた。
「どうしてこんな…エリーが手を汚してるんだ!!!」彼の声には混乱と怒りが入り混じっていた。
「どうして…って…これが最善だったから…」私は力なく答えた。
その時、お義父様は私の父の遺体の傷を見つめ、鋭い目を輝かせた。
「ハッハハッ。見事だ。俺が教えたのか?エルレナ嬢。」彼の声には驚きと少しの誇りが混じっていた。
「……そうです。」私は俯いて答えた。
「父さんが!?」
お義父様は軽く頷き、「未来の俺が教えたんだろう。この切り込みの癖は俺に似ている。」と冷静に分析した。
「エリー、ごめん。間に合わなくて…。俺たちが殺す予定だったんだ。」ルーは心底悔しそうに呟いた。
「離して…ルー。」
私は必死に抵抗した。
「嫌だ!!離したらどこかへ行ってしまうつもりだろ!!」
ルーの腕はさらに強く私を抱きしめた。
「離しなさい!!私は!!もうアナタの元へは帰らない!!」
私は声を張り上げたが、ルーは一切緩めることなく抱きしめ続けた。
すると、両手でパンパンと手を叩くお義父様が口を開いた。
「エルレナ、レッドナイト家の秘密を知りすぎているようだな?ブルービショップのことも。」
「それは…。」
「嫡男の嫁なのだから当たり前だろうな。回帰前の人生でルーが君に何か嫌なことをしたか?」
お義父様の問いに、私は答えられなかった。答えてしまったら、もう二度と、ルーから離れることができないと思ったからだ。
「ルー、強行手段で構わない。ミレーヌに頼んで洗脳させて教会へ連れていけ。」お義父様の声は冷静だったが、その中に決意が見えた。
「わかった。父さん。」
ルーは私をしっかりと抱きしめたまま、頷いた。
「アナタ!!」
私は叫んだが、ルーは離してくれなかった。
「俺は言ったはずだ。もう離さないと。離してやれないと。」ルーの声には、揺るぎない決意が込められていた。
「…っ!!」
私は涙をこぼしながらも、彼の胸に顔を埋めた。
「エルレナ。どの道、他所へはやれない。さっきも言っただろう。君は知りすぎている。外の世界のことも知っているんだろう…?」
お義父様の言葉に、私は小さく頷いた。
「それは…。」私は震える声で答えた。
外の世界。私は一度だけルーが王の護衛で外の世界へ貿易に出る時に付き添ったことがあった。外の世界を一度見て体験すれば、この国がどれだけ小さく、誰かの作った箱庭に過ぎないことがわかってしまう。忘れられるわけがない。
「賢い君なら理解できているようだな?」お義父様の冷静な声が部屋に響いた。「レッドナイト公爵家の檻は強固で頑丈だ。君の体に鎖がある以上、うちに属するしかないと…。」
私はその言葉に背筋が凍る思いがした。確かに、私の左足首には青白く光る小さな輪が浮き出ていた。それは、私がブルービショップの秘密を知っているという証だった。
「エルレナ、どちらが良い?洗脳されて式を勝手にあげさせられるか。自分の意志でもう一度ルーとの人生を歩むか…。」
そのお義父様の言葉に身体の力が抜け、私はルーの腕をすり抜けて座り込んだ。目の前がぼやけ、心の中に絶望が広がった。
「どう…して…。お義父様まで…。」涙が頬を伝い、声が震えた。
お義父様は私を見下ろし、微笑んだ。「こんなに出来の良い娘を他所にやるなど、頭がどうかしてるだろ?」
その言葉に胸が締め付けられるような思いがした。「う…ふぇ…っん…ぇっ…。」私は声を上げて泣いてしまった。苦しみと混乱が押し寄せ、涙が止まらなかった。
ルーは私の前にしゃがみ込み、優しく手を伸ばして私の涙をすくい取った。
「どうして俺の言葉ではダメで父さんの言葉で落ちるんだよ。」ルーの声は低く、けれど優しい響きを帯びていた。彼の目は真剣で、その中には深い愛情と少しの嫉妬が混ざっているように見えた。
ルーは私の顔を両手で包み込み、じっと見つめた。
「妬くぞ。」
彼の言葉には微笑みが含まれていたが、その目には真剣さが宿っていた。彼の親指が私の頬を優しく撫で、涙の跡を拭い去っていく。
私はその温かさと優しさに少しずつ心を開いていった。
「ごめんなさい…あなた。」
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