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ユリは華やかなパーティー会場の中をスタスタと歩き、壁の端に向かっていた。 周囲の華やかなドレスや騒がしい音楽が彼の影を隠した。
「ユリ…?」
「前の相手はアジャール王子だったのですね。」
ユリは私にしか聞こえないような低い声でボソリと呟いた。その言葉にドキリとした。どうして分かったのだろうと。
「えっ…。」
「分かりやすい反応をしないで下さい。全ての説明がつきます。あらゆる分野の書類処理ができることや、完璧な所作。そして、アジャールを見た時のあのこわばり…。いえ、今ここで話すべきではないか。誰が聞いているかわからないからな。続きは帰ってからだ。」
「う、うん。」
演技とはいえ、ユリの殺人仏頂面が恐いよ~~!!
しばらくして良い頃合いになり、ユリとメイシールは会場を後にした。
馬車の中では、キスの雨が突然降り始め、私が「止まってくれ」と言っても、ユリの愛情表現は収まる気配がなかった。
ユリが公爵邸に戻るとすぐに、「今夜もメイを抱きたい。準備をしてくれ。」と言って私をメイドに引き渡した。
メイドはかなり驚いていたが、それでも何も言わずに、私の準備を始めてくれた。 まず、お風呂に入れてくれて、心地よい湯船で体を温めた。 その後、髪を丁寧にセットし、美しい髪型を作ってくれた。 最後に、寝やすい服を着せてくれて、ベッドに横たわる私を快適にするために心を尽くしてくれた。
そして、廊下を複数人のメイドと共に歩いていると、前からレッドナイト公爵家の制服を着た騎士の人が歩いてきた。
「メイシール様、こんばんは。深夜にお目にかかるとは、少々驚きました。 お体はいかがでしょうか?」
メイドたちが庇うように前に立ち、「去りなさい。男性はメイシール様と言葉を交わすことが禁じられているはずです」と説明した。
(そうなの!?禁止だったの!?初耳なんですけど!?)
「それはそれは失礼致しました。まだまだ新人でして…。」
騎士はヘラヘラと笑ながら通り過ぎていったので急いで部屋へと向かった。
―――――――
―――
「お待たせしました。」
「メイ~!可愛いですね!!」
部屋を開けるなりユリは私を抱きしめて、そのまま抱き上げてベッドに連れていく。
先程とのギャップに、私は顔を引きつらせてしまった。 ユリも湯浴みをしたようで、髪の毛が濡れていて、身に着けているバスローブもとても色っぽかった。
そして使用人と護衛騎士を全員下がらせた。
「さぁ、これで二人きりです。今日も熱い夜を過ごしましょう。」
ユリは恍惚とした怪しい笑みを浮かべながらゆっくりと私をベッドに降ろした。
「お、お手柔らかに…。」
「もちろんですとも。でも今日はとても嫉妬してしまったので、手加減ができないかもしれません。」
「えぇ!?あ、そういえば、ここに来る前に新人の騎士に会いました。軽く挨拶をされて、体の調子はどうだって聞かれました。」
ユリは私に体重を乗せないように覆いかぶさる。
「そうですか、では、しばらくの間、一緒に風呂に入りましょう。」
「えぇ!?どうしてそうなるのですか?」
「さて、どうしてか…。メイの体に刻むとしましょうか。」
「足の怪我もまだ完治されてないのですから、無理はしないで下さいね。」
「はい。もう時間も遅いですから、早めに終わらせましょう。」
――――――
――――
深夜、うす暗い蝋燭一本が明かりを灯す部屋で、王が玉座に座り、溜息をついていた。そこへ一人の騎士がやってきて頭を下げた。
「報告を。」
「はい。私の見解では、恐らくユリドレ殿の妻は政略結婚による道具である可能性が高いと見ています。ユリドレ殿は身籠った幼い妻を毎日のように抱き潰しており、相手の気持ちを全く考えているようには見えません。ですが、表向きはそれを悟られぬように優しい夫の演技をしているようです。」
一人の騎士はユリドレの普段とは違うニコニコとした笑顔や、片時も離れないかのような姿、そしてメイドの話では毎日メイシールを抱き、その痕跡も毎日シーツに残っているという証言を頭に思い浮かべ、さらには彼が任務で「全部演技だ。鬱陶しい。」と語った言葉を思い返してそう報告したのだ。
「演技か。あれは下手くそな演技だな。」
王は王で、今日、挨拶をしに来たユリドレのいつもの仏頂面に本当に妻を愛しているかのようなセリフを述べてはいたが棒読みだったことを頭に浮かべながら下手くそな演技と述べていた。
「はい。誰が見ても嘘だと分かります。」
「そうか。ユリドレの弱点になるかと期待したのだがな。」
王はレッドナイト公爵家の権力の強さに、少し鬱陶しさを覚えており、何か弱点はないかと探っていたのだ。
「使い捨ての道具に過ぎないかと。」
「ふむ。跡継ぎだけ産ませて切り捨てるつもりか。なるほどな。子を孕んでおらんかったら、二人を引き離し、アジャールの嫁にしてやりたかったな。」
王はメイシールを見て目をキラキラさせて赤面する自分の息子の姿を思い出して、なんとかならんかと考えていた。
「毒でも盛りましょうか。」
「いや、あやつの家系はすぐに毒を見抜く。使い捨てといえども、発覚すれば面倒なことになる。メイシールはアジャールと同じ12歳の少女だ。ストレスをかければ自然とおりるだろう。上位貴族らにパーティーを頻繁に開かせるのだ。」
王はまだまだ体の作りが追い付かない少女だからと頻繁にパーティーを開かせて、適当な工作員にぶつからせ衝撃をあたえれば、流産するのではないかと考えていた。そうすれば、側室としてオモチャとして息子に与えられるのではないかと考えていた。
「畏まりました。そのように手配致します。」
騎士は既にユリドレを任務失敗に追い込む任務を失敗していたので、次は失敗できないぞという強い気持ちを持って、次の手を考え始めた。
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そして更に深夜、メイシールがぐっすりと眠る隣でメイシールの頭を優しく撫でながら、黒ずくめの私兵からの報告聞くユリの姿があった。
「奴はそのように報告しておりました。」
私兵からの報告内容は、王側の騎士の何人かがスパイとしてレッドナイト公爵家の騎士に成りすましており、それを見張り、王への報告を盗み聞きしてきたというものだった。
「思惑通りだな。この調子では当分気が抜けないな。子供が生まれるまでの間に何度服を新調させる気だ?愚王め。」
ユリドレはメイシールを愛おしそうに見つめながら、優しく頭を撫で続け、ほくそ笑んでいた。
「今を耐えるしかありません。メイシール様は大丈夫でしょうか。」
ユリは自分と同等にメイシールを主君だと思えと私兵に伝えているため、彼らもメイシールの心配をしっかりとしているようだ。
「大丈夫…と言いたいところだが、あいつらが何をしてくるかわからない以上は言い切れない。メイシールは、どうして俺に選ばれてしまったのだろうな。俺にはもったいないくらいの奇跡の人だというのに。」
「メイシール様が選ばれたのではなく…ですか?」
ユリの身に起きた全ての事を知る私兵だが、みた限りではメイシール側が時期公爵であるユリドレに近づき、既成事実を作り、幼いながらに地位を築こうとしているように見えていた。
「さぁ、どっちが先だったろうかな。それより、ミレーヌの調子はどうだ?」
「はい、彼女は真面目に訓練に取り組んでいます。身辺調査や心理テストの方も問題ありませんでした。ですが、訓練を始めた時期が他の者と遅れている為、時間が必要かと。」
「メイが大切にしているメイドだ。気を使ってやってくれ。そうだな…トリントあたりが独身だったな。仮面を外してミレーヌの護衛と相性が良ければ恋仲になっても良いと指示しておいてくれ。」
ユリはミレーヌに最低限メイシールを守れるように、特殊な訓練を受けさせていた。彼女にとっては少し厳しいだろうが、耐えられるところまでやってもらおうと考えていた。
「承知しました。」
―――メイが生まれたその時から、計画は既に始まっていたなんて知ったら驚くだろうな。