107p【終】
翌朝、私たちはゆっくりとした時間を過ごしていた。ユリと共に朝食を取りながら、静かな朝のひとときを楽しんでいた。彼の隣に座り、窓から差し込む柔らかな朝日が、部屋全体を温かい光で包んでいた。
ユリは食事の合間にふと顔を上げ、真剣な表情で私を見つめた。
「メイ、この後すこし良いですか?」
「えぇ、良いわよ。」
彼が何を話そうとしているのか少し気になりながらも、その瞳にはいつもの優しさが宿っていた。
食事が終わると、ユリは私の手を取って立ち上がり、優しくエスコートしてくれた。彼の手の温もりを感じながら、私は彼についていった。
着いたのは公爵邸の1階の端に位置する部屋だった。ユリが特殊能力を使い部屋の蝋燭全てに火をつけると、部屋が一気に明るくなった。薄暗かった空間が、温かい光に包まれる。
「わぁ…肖像画じゃないのね。」私は驚きの声を上げた。
「はい。ここはレッドナイト公爵家にとって最も秘密の場所です。この部屋の灯りは特殊能力を用いた火でしか灯すことはできません。」ユリは微笑みながら説明してくれた。
部屋の壁には、歴代レッドナイト公爵家の家族写真が飾られていた。それぞれの写真には、公爵家の歴史と絆が感じられる。ユリが私の手を引いて、一つ一つの写真を見せてくれた。
ユリは私の手を引き、最初の写真の前で立ち止まった。
「これは初代レッドナイト公爵の写真です。…メイ、わかりますか?」
ユリは私の手を引き、最初の写真の前で立ち止まった。「これは初代レッドナイト公爵の写真です。…メイ、わかりますか?」
見せられた写真には赤い髪に赤い瞳の男性と青く長いウェーブのかかった髪に青い瞳の女性が、赤い髪の男の子と青い髪の女の子と一緒に写っていた。私の心に驚きが走る。
「これ…もしかして…。」
「そうです。初代レッドナイトはブルービショップと結婚していたんです。」ユリは微笑みながら答えた。
「えぇ!?しかもこんな昔から写真があるの?」
私は信じられないように写真を見つめた。
「はい。実は、この国の外を見たらメイは倒れてしまいそうですね?」ユリは少しからかうような口調で言った。
「そんなに文化が進んでるの?」
「はい。外の世界は何倍も進んでいます。この国は鎖国していて、文化が止まったままですから。よその国から見れば、ここはまるで古代のようでしょうね。」
私たちはさらに写真を見進めていくと、黒髪の男性と私と同じ桃色の髪をした女性が仲睦まじそうに写っている写真が目に入った。それが4代、5代くらいの間隔で何度も写っていて、私は不思議に思った。
「ユリ…なんだか4代か5代ごとに私たちに似たような人達が…。」
「メイもそう思いますか?俺も…幼い頃から不思議に思っていました。他人とは思えませんよね。」
「えぇ、そうなの。」
「どうしてだか、俺には分かります。手記があるんです。」
「手記?」
「はい。日記に近いですが…歴代の黒髪に生まれ、桃色の髪の女性と結ばれた先祖が残しています。」ユリは本棚から一冊取り出して私に差し出した。「読んでみてください。開けばわかります。」
私は本を受け取り、慎重にその表紙を開いた。ページをめくると、そこには私の筆跡とユリの筆跡で、お互いがどう出会って、どんな日々を過ごしたかが綴られていた。筆跡はまるで今の私たちが書いたかのように鮮明で、感情が溢れていた。
「これは…私たちのこと?」私は驚きと疑念が入り混じった声で言った。
ユリは微笑みながら頷いた。
「そうです。これらの手記には、私たちの先祖が同じように出会い、愛し合い、共に生きた記録が残されています。俺たちも、その流れの一部なんです。」
「どうして…どうしてこんなことが…。」私は驚きと戸惑いで声を震わせた。
私は手記を読み進めながら、そこに描かれた愛と苦難、そして希望の物語に心を打たれた。私たちの先祖たちもまた、同じように愛し合い、困難を乗り越えてきたことを知り、私の心に深い感動が広がった。
「驚くことに全て、レッドナイトとブルービショップの組み合わせなんです。例外はまだありません。運命なのか、偶然なのか、運命を装った必然なのか…答えは謎なままですが…何度生まれ変わっても俺はメイが良いです。」
「ユリ…。」
私はその言葉に胸が熱くなった。ユリの深い愛情が伝わってくる。
「俺たちも手記を残しましょう。沢山の思い出を…ここに残しましょう。」ユリは優しく微笑みながら提案した。
「ふふ…素敵ね。」
ユリが私をそっと引き寄せ、再び写真の前に立つ。彼の目は優しく、そこには確かな愛が宿っている。
「メイ、これからもずっと一緒です。どんなことがあっても、何度生まれ変わっても、何度回帰しても…俺はメイと添い遂げます。」
「私もユリを追いかけるわ。どこまでも。」
こうして、私たちの物語は永遠に続いていく。愛と誇りを胸に、ユリと共に歩む未来を見据えながら、私は確信した。私たちの愛は、どんな困難にも負けない強さを持っていると。これからも共に手記を紡ぎ、愛と絆を未来へと伝えていくのだと。
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―【50年後】―
50年の時が流れ、ユリドレとメイシールは共に長い人生を歩み、その最後を迎えた。老衰で静かに息を引き取った二人の葬儀は、荘厳で厳かに執り行われた。
葬儀が終わった後、屋敷には静寂が漂っていた。参列者たちは次々と帰途に就き、広間には親族や近しい者たちだけが残っていた。黒い服を身にまとった彼らは、まだその余韻に浸り、静かに思い出話に花を咲かせていた。
ユリドレとメイシールが共に座って過ごしたベンチが見える。そこには、52歳になったユリシールが静かに座り、涙をこらえながら両親の思い出に浸っていた。手には、母メイシールが愛用していた手帳が握られていた。その手帳には、二人の愛の物語がぎっしりと詰まっていた。
庭に面した大きな窓から優しい午後の日差しが差し込み、風がそよぐ音と遠くから聞こえる鳥のさえずりが静かな空間に柔らかなアクセントを添えていた。ベンチに座るユリシールの表情には深い哀しみが漂い、手帳を開くたびに涙がこぼれそうになっていた。
そんな彼の元に、弟のユールと妹のレシーが近寄ってきた。二人は共に喪服を纏い、ユリシールの背中をそっと撫でながら声をかけた。
「兄さん、喪主お疲れ様でした。」ユールが静かに言った。
「本当に、大変だったでしょう。」レシーが優しく続けた。
ユリシールはゆっくりと顔を上げ、二人を見つめた。目には涙が浮かんでいたが、微笑みを浮かべようと努力していた。
「ありがとう、ユール、レシー。二人がそばにいてくれて助かったよ。」
ユールは兄の隣に腰を下ろし、肩に手を置いた。
「本当にハッピーエンドだったのかな…。」
レシーもそっとユリシールの反対側に座り、手を握った。
「メアルーシュ兄様が…あんなことになったから…。」
ユリシールは深く息を吸い込み、優しく答えた。
「それでも…やっと鎖から解放されたんだ。きっと二人にとってはハッピーエンドだよ。それに、王国史上最も子宝に恵まれた人として名前が残るだろうしね。」
レシーは涙をぬぐいながら頷いた。
「お兄様…。」
「それに…、ブルービショップの血が入っている限り、悲しいことも多いけれど最後は必ず幸福になる。だからきっと母さんも父さんも辛いだけじゃなかったはずだ。」ユリシールは力強く言った。
「そうよね…。」レシーも力強く頷いた。
ユリシールは二人に向かって微笑んだ。
「それに兄さんにはエルレナ様がついてくれてる。…さぁ、ユール、レシー、部屋で引きこもってる末っ子を慰めてきておやり。」
二人は頷き、末っ子の部屋へと向かった。彼らが去った後、ユリシールは静かに手記を開き、ページをめくっていった。すると、そこにメアルーシュの悲劇が綴られていた。
出所した元ゴールドキング公爵に不意を突かれ、エルレナを守るために命を落としたメアルーシュ。そして、彼の死後、エルレナもまた、メアルーシュの心臓を食べて回帰の輪へ旅立ったことが書かれていた。
ユリシールの目には涙が浮かんだが、その後の言葉に希望を見出した。手記の最後にはこう綴られていた。
「二人はきっと再び巡り会い、幸せな未来を築くことができる。ブルービショップの血が流れている限り、最後には必ず幸福が待っているのだ。」
―【END】―
最後まで読んで下さってありがとうございました!!!!
本編完結です!!
オマケをちょろっと書きますね!!引き続きお楽しみください!