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私が知っている人生は…どれもユリに記憶を奪われた後の人生だったということがようやく理解できた。今現在…ユリが暴走し、狂ったように私を激しく抱きしめているのは、未だに私に拒絶されるのが恐くて恐くてたまらないからだ。記憶が戻った私は今こうして必死なユリが、あの時の10歳の小さな少年のままに見えた。ユリが私に敬語を使う理由も、ユリと呼ばせる理由も…全て全てわかってしまった。
心の痛みと物理的な快楽が入り混じり、何をどうすればいいかわからなくなる。ユリの腕の中で、私は絶望と混乱に包まれていた。
「ユリ…ユリ…ユリドレ様…私っ…。」
「あぁ…メイ…。ずっと…ずっと…俺はずっと…アナタとこうしたかった。アナタと繋がりたかった…。」
彼の言葉に、私は胸が締め付けられる思いだった。ユリの愛がどれほど深く、どれほど歪んでしまったのかを痛感した。
「もう許されないことが…許されないのね…。」
「はい…。もう後戻りはできないでしょう?子供も沢山作りましたしね。そしてこれからも…。」
彼の言葉に、私は絶望の淵に立たされた。ユリの愛は狂気と共に私を縛りつけ、私には逃げ場がなかった。
「もう…やめて…。」
私は涙を流しながらユリに訴えたが、彼の手は止まらなかった。彼の抱擁はますます強く、私を圧倒するように感じられた。
「メイ、アナタが俺を拒絶するたびに、俺の心は壊れていきました。だからこそ、俺はアナタを手に入れるために全てを犠牲にしたのです。」
ユリの言葉に、私はただ涙を流すことしかできなかった。彼の愛が私を支配し、その愛が私を苦しめる。
心の中で葛藤が渦巻く中、私はユリの目を見つめた。彼の目には深い悲しみと愛が混在していた。だが、今までの日々が私の罪の意識や疲れを癒すほどの壮絶な思い出が、私の心を解放し、罪を許してくれた。別人としてしか見れなかったユリを、今ではちゃんとした一人の男性として深く愛していた。彼が私に自分の人生を犠牲にしてまで捧げてくれた愛を、今やっと返せる気持ちになった。
「ユリ…!ユリ…!もういいの!!愛してる!!ちゃんとアナタを愛してるわ!!怖がらないで…。」
ユリの動きがピタリと止まった。彼の目には戸惑いと不安が浮かんでいた。
「でも…さきほどやめてと拒絶なさいました。」
「違うの…。脅えないでって意味なの…。私に拒否されることが恐かったんでしょう?だからこうしたんでしょ?私たちはもう立派な夫婦で、今まで沢山の幸せを築いてきたわ。ユリ…アナタの愛が…勝ったのよ…。アナタの勝ちよ…ユリ。」
ユリの目に涙が浮かんだ。彼の顔には安堵と喜びが広がり、長い間抱えてきた不安と恐怖が消え去るのを感じた。彼の手が震えながら私の頬に触れ、優しく撫でた。
「メイ、本当に…?」
「本当によ、ユリ。私はあなたを愛してる。そしてこれからも、あなたと共に生きていく。」
「あぁ…、あぁ…。やはり…ブルービショップの女神は俺を選んで下さったのですね…。」
ユリは震える唇を私の唇に押し当てた。その瞬間、私たちの心が一つになったような気がした。互いの愛を確認するかのように、深く繋がり合った。
ユリの唇は温かく、優しく、私の心に安らぎをもたらした。彼の抱擁は力強く、それでいて繊細で、私たちが互いに必要とし合っていることを改めて実感させた。
静かな夜が訪れ、外の嵐も遠ざかり、部屋の中にはただ私たちの呼吸音だけが響いていた。ユリの腕の中で、私は安心感に包まれていた。
「ユリ…頑張ったわね…。えらいえらい。」
私は愛情をこめてベッドで隣に横たわるユリの頭を優しく撫でた。ユリはずっと泣いていた。よほど私を失うことが恐かったのだろうか…。
「す、すみません…45歳にもなって…。」
「でも、どうして記憶を戻す気になったの?私はてっきりおばあさんになってからだと思ったわ。」
ユリは涙を拭いながら、静かに答えた。
「子供達が勇気をもって幸せを掴み取る姿に俺もそうしなければならない気になったんです。」
「ふふ。わかる気がするわ。」
「俺は…今まで俺に拒絶された分、俺なりの愛で挽回したかったんです。それが挽回できたと自信を持ったんです。だって俺は…メイを最初から愛していたはずですから…。」
「…今の私なら分かるわ。最初から私を愛してくれてたってことが…。」
「メイ…。はいっ、はいっ…!!そうなんです…。アナタを愛さずにはいられないんです。」
「そうね。結果的に…アジャールが邪魔だったわね。」
「ふふっ。はい。そうですね。最初の俺はまだ分かっていなかったんです。メイに執着しつつも公爵という地位にもきっと執着していたんだと思います。」
「ずっと…アナタの心は私の側にあったのね…。」
ユリは私の言葉に深く頷き、再び涙を浮かべながら言った。
「そうです、メイ。俺の心はずっとアナタの側にありました。アナタを愛することが俺の全てだったんです。」
きっと、ユリの長い苦労がなければ私は最初から好きだったと言われても信じることができなかっただろう。長年寄り添ってユリの思考や言動、行動…癖を理解してやっと信じることができるのだから…。
ユリはそっと私の太ももを擦った。
「この1つ1つの鎖が…俺への愛の証だと思うと…興奮します。」
「すごい言い方するわね。」
「知っての通り、俺は全てを諦めるように母に仕向けられて育てられましたから、この熱烈な愛情が一気に俺に押し寄せて、幼いながらもすぐに好きになりました。これに深い愛を感じたんです。」
私はユリの言葉に驚きながらも、その真剣な表情に心が温かくなった。彼の愛がどれほど深く、真摯なものであるかを改めて感じた。
「あと1つ、メイに無理をいっても良いですか?」
「ん?何?」
「俺は…ルーが生まれた後、ただ記憶を封印するだけでなく、一部の記憶のみを封印するという技術をひたすら磨いてきました。」
「えぇ!?私に隠れて?」
「はい。ルーを実験台にしました。」
「可哀想なルー…。」
「そうですね。でも、とても協力的でした。」
「そうなのね。」
「はい。ですから、その技術を使って最初の記憶以外を1度封印したいと思います。」
「えぇ!?流石にそれは嫌よ。幸せな記憶がなくなっちゃうじゃない!!」
「期間は1週間ほどでどうです?」
「う…まぁ…それなら…。」
「最初の記憶のアナタがどれほど幸せになるのか見てみたいんです。」
「でも、それなら、ユリ。常に仏頂面してクールに振る舞わないといけないわよ?できる?」
「う…!?…が、頑張ります。」
「微笑みも最小限にしなきゃダメよ?」
「完全に微笑まないというわけではないようですね?」
「えぇ。一瞬だけ笑うの。私の魅力に我慢できなかったみたいにね。」
「そうですね…我慢できるわけがありません。1週間耐え抜いてみます。一度見せて下さい。」
「分かったわ…。」
私はユリの提案に驚きつつも、彼の決意を尊重することにした。彼がどれほど私を愛しているのか、その愛の深さを再確認するために、私は彼の願いを受け入れることに決めた。
「じゃあ、始めましょうか。」
ユリは深呼吸をし、私の手を取って優しく握りしめた。彼の手の温もりが私に伝わり、心が安らいだ。私は彼に微笑みかけ、彼の提案に従うことを決意した。
「メイ、ありがとうございます。」
「えぇ、ユリ。ふふ…1週間後が楽しみだわ。」
ユリは私を強く抱きしめ、その後、記憶を封印するための準備を始めた。彼の目には決意と愛が宿っており、その姿を見て、私は彼への信頼を深めた。
ユリは私を強く抱きしめ、その後、記憶を封印するための準備を始めた。彼の目には決意と愛が宿っており、その姿を見て、私は彼への信頼を深めた。ユリの記憶操作は少し不安定で、どの鎖に最初の記憶が詰まっているのかがわからず手間取りはしたが、ゆっくりと私の頭の中が白くなっていった。
そして…ユリをかばって処刑された私が目を覚ました。
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