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その後、何度も何度も、何百回と死に戻りを繰り返し、私は彼を手に入れようとした。しかし、どれも失敗に終わってしまう。
一度は、彼に近づきすぎて彼の信頼を失った。別の時は、彼を守ろうとして命を落とした。ある時は、彼の前で自分の弱さをさらけ出しすぎて彼に軽蔑された。いったい何がいけなかったのか、彼を手に入れることは不可能なのだろうか。永遠の時の中で、私は彼を手に入れるために戦った。
――私を愛して欲しい。愛されたい。愛して、愛して、愛して…!!
けれど、ついに心が折れる時が来てしまった。何度挑戦しても、何度やり直しても、結果は変わらなかった。ユリドレの冷たい眼差しは変わらず、私の努力は報われなかった。
長い戦いの末に、私の体の半分が青白く光る鎖で埋め尽くされていた。両手足先から腰のあたりまで、その鎖一つ一つが、まるでユリドレ・レッドナイトを追い求めた罪のようだった。
――まるで…物語の人魚姫のようね。
その思いが頭をよぎると、心の奥底から深い悲しみと絶望が湧き上がってきた。人魚姫もまた、自らの愛のために痛みと犠牲を選び、愛する人のために自分を捧げた。彼女の愛が報われることはなかったが、その純粋さと献身に、私自身を重ねずにはいられなかった。
愛のためにどれだけの犠牲を払っても、その愛が報われることはない。それが私の運命なのかもしれない。幾度となく死に戻りを繰り返し、彼を手に入れるために戦った日々が、今はただの虚しい記憶として私の心に残っている。
人魚姫が陸に上がり、愛する王子のために歩むたびに感じる痛み。私の鎖も同じように、ユリドレを追い求めるたびにその重さと痛みが増していった。鎖が体を締め付けるたびに、私は自分の愛の愚かさを感じ、彼の心を得ることができない無力さに打ちひしがれた。
彼を愛している、それだけで十分だと思ったこともあった。しかし、その愛が返されることはなく、ただ冷たい眼差しと無情な言葉だけが私を迎えた。まるで人魚姫が泡となって消えゆく瞬間のように、私の心もまた消え去りそうだった。
それでも、愛することをやめることができなかった。その純粋で愚かな愛が、私の存在そのものを支えていた。人魚姫が最後に自分の愛を諦めるように、私もまた、この永遠の戦いに終止符を打つ時が来たのかもしれない。
ユリドレへの愛が私を駆り立て、私を傷つけ、そして最終的には私を滅ぼした。この青白く光る鎖は、私が彼を追い求めた罪の証であり、同時に私の愛の象徴でもあった。その鎖が私の体を締め付けるたびに、私は自分の愛の重さを感じ、その痛みを受け入れるしかなかった。
まるで物語の人魚姫のように、私もまた、愛のために全てを捧げ、そして何も得ることができない運命に従うしかなかったのだ。
私の心は重く、痛みで満ちていた。何度も何度もユリドレを追いかけ、その度に失敗し、絶望の淵に立たされてきた。彼の冷たい眼差しと拒絶の言葉が、私の心を砕いていった。それでも私は諦めることができず、必死に彼を手に入れようと戦い続けた。
しかし、その戦いは私を消耗させ、心身ともに疲れ果てさせた。もうこれ以上、彼を追い求める力も気力も残っていなかった。ユリドレの愛を得るために、私はどれだけの時間と労力を費やしたのだろう。彼の心を動かすために何度も策略を練り、どれだけの涙を流したことか。
私はユリドレのことを深く愛していた。その愛は純粋で、彼を幸せにしたいという一心で行動してきた。しかし、彼の心は私に届かず、私の努力は無駄に終わってしまった。その現実を受け入れるのは、想像以上に辛かった。
もう追いかけることはしない。彼を求めることもない。私の心は彼の冷たい拒絶に打ちのめされ、これ以上耐えられないと感じた。何度も彼を追い詰め、彼に迷惑をかけてしまったことを思うと、心が痛む。自分の愚かさと無力さに、涙が溢れて止まらなかった。
――ごめんなさい、ユリドレ様……。
心の中で何度も謝罪の言葉を繰り返した。彼を愛して、彼のために尽くそうとしたその気持ちが、彼にとっては重荷でしかなかったのだろう。彼にとって私は、ただの迷惑な存在だったのかもしれない。
もう愛してもらおうとは思わない。彼の愛を求めることが、私にとってどれだけ苦しいことか、ようやく理解した。彼の冷たい態度に耐えられなくなり、心が折れた瞬間、私は自分の無力さを痛感した。愛されることを望むのは、もうやめよう。彼に迷惑をかけないためにも、もうこれ以上追いかけることはやめよう。
――もう…いい…。
心の中でそう呟きながら、私は自分の体の疲れと心の痛みを感じた。長い戦いの果てに、私はすっかり消耗しきっていた。彼の愛を得るために戦い続けた日々は、私にとって過去のものとなった。
でも…最後に、彼に謝りたい…。もう追いかけません。アナタを求めません。今まで何度も何度も追い詰めてしまってごめんなさい。もう愛してもらおうと思わないから…。もう…いい…。疲れたの。
再び赤子に戻った私は、この人生で終わらせようと思った。ユリドレに謝って、彼に近づかないようにして、全てを終わらせようと心に誓った。
そのチャンスは早くも訪れた。10歳を過ぎた頃のユリドレが、ブルービショップ家の秘密を探るために私の部屋に侵入してきたのだ。暗闇の中で、私はその小さな影に気づいた。
小さな影は一瞬動きを止めたが、すぐに再び動き出した。そのとき、私は彼がユリドレであることを直感した。
私の母は魔法使いの家系で、魔力を糧に様々な特殊能力を使うことができた。その一つにテレパシーという、相手の脳内に直接言葉を送り届ける魔法があった。死に戻りを繰り返しているうちに身に着けた能力で、私は静かに目を閉じ、心の中でユリドレに話しかけた。
《ユリドレ・レッドナイト、私の声が聞こえる?》
ユリドレは驚いて動きを止めた。そして、彼の心に私の声が届いたことを感じた。
「誰だ? どこにいる?」
《私はここだよ。》
ユリドレは恐る恐る天蓋付きのベビーベッドに近寄り、カーテンを開けた。
「…赤ちゃん。」
《そう、私は今、赤ちゃんね。》
「ほんとうにお前が喋ってるのか?」
《えぇ。そうよ。》
「お前っ!!その紋章…。」
私の体には恐らく無数の鎖が浮かび上がっていることだろう。ユリドレはそれを見て驚いているのだ。
《突然で申し訳ないけれど、私ね、あなたに謝りたいの。》
彼の心の中に疑念が広がるのを感じた。
「謝る? 何のことだ?」
《私は沢山の人生でアナタに多くの苦しみを与えてしまったの。きっと謝って許されることではないけれど、ごめんなさい…。もう迷惑をかけないわ。》
ユリドレはしばらく沈黙した後、冷静な声で答えた。
「何を言っているのか分からないが、お前の言葉には嘘がないようだ。だが、俺はブルービショップ家の秘密を知るためにここに来た。それだけは変わらない。」
《なら、ブルービショップの全てを教えます、だから…それを知ったらもう、お別れしましょう。私はとても疲れてしまったの。あなたを追いかけることも、あなたと一緒にいることも、何もかも…。》
ユリドレは静かに頷き、その言葉に耳を傾けた。その瞬間から、私は彼にブルービショップ家の秘密と、私が回帰の中で犯してきた過ちについて語り始めた。
その夜から、私はユリドレに全てを語り始めた。暗い部屋の中で、小さな灯りが私たちを照らし、ユリドレの真剣な眼差しが私に向けられていた。
《ブルービショップ家には特別な力が宿っています。それは、回帰の力。私は何度も何度も死に戻りを繰り返し、あなたを追い求めてきました。》
ユリドレの眉が寄せられ、困惑と驚きが交じった表情が浮かんだ。
「回帰の力?そんなことが本当にあるのか?」
《はい。私はその力を使って、無数の人生であなたを追い求めました。でも、その結果、あなたに多くの苦しみを与えてしまったの。》
私はユリドレに、回帰前に私がしてきた陰謀や策略について詳細に語り始めた。彼を手に入れるために使った策略、彼の信頼を得るために行った裏工作、そして彼の命を何度も奪うことになった暗殺の計画。すべてを包み隠さず、彼に話した。
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