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翌朝、ユリがまだ帰ってこない中、私は部屋に残された書類の山に目をやった。 見るからに時間がかかりそうな仕事が待ち受けているが、どうやら私が処理できそうなものばかりのようだ。 気を取り直して、書類に向き合い始めた。
朝食をゆっくりと楽しむことができたのは久しぶりだった。 普段はユリが口に運んでくれるため、少し戸惑いを感じ、恥ずかしくなってしまう。まぁ、もう慣れそうだけれど。
やっぱりちゃんと言わないといけないわね。そう、帰ってきたらビシッと言わないと!
ユリは昼食前に帰ってきたが、その姿は少しボロボロだった。 衣服には傷や汚れがついており、何かしらの苦難を経験したことがうかがえた。
「大丈夫ですか!?」
「少し近づかないで下さい。汚れてしまいますから。」
「でも…。」
「メイを汚したくないのです。すみませんが重要な書類を机に置いておいてもらえますか?」
少し焦げ付いた紙を私に差し出してきたので、それを受け取って机の上に置いた。
「ありがとうございます。この部屋以外に厳重で安全な場所がないもので。汚れを落としてきます、その後でランチにしましょう。」
「えぇ…。」
ユリは少し足を引きずっているように見えた。
(本当に大丈夫かしら。)
ユリはしばらくして戻ってきたが、やはり足を引きずっていた。 彼の顔には疲労がにじんでおり、それでも私を膝の上に乗せようとしてきたので私は距離をとってそれを防いだ。
「ダメです!お怪我をされているのに、そんな…。」
「いいえ、だめです。俺は苦労をして帰ってきました。それくらいさせてもらわないと腹の虫がおさまりません。」
(怒ってるの!?どういう方法で怒りを消化させようとしてるの?)
「あ。でしたら、今日は私がユリに食べさせます!」
我ながらなんて恥ずかしい提案をしてしまったのだろうと早くも後悔し始めた。
「良いでしょう。その提案にのります。」
しかし、結局身長差に無理があり、ミレーヌの膝の上に座って、ユリの口へ食事を運ぶはめになってしまった。 ミレーヌの顔は赤らめ、いたたまれなさそうな表情を浮かべていた。 その様子が、さらに私の羞恥心をかき立てた。
「早く成長したいです…。」
「ふふふ。俺も成長したメイに早く会いたいですよ。」
食事が終わると、ユリは使用人や護衛を全員部屋から追い出した。そして私をベッドの上に運んだ。
「ここへ来てからベッドの上で過ごす時間の方が多い気がします。」
「メイが可愛すぎるのがいけないと思いませんか?こんなにも俺を惹きつけて。一体どうなさるおつもりですか。」
妖艶な雰囲気を漂わせてくるユリにゴクリと生唾を飲んでしまう。
「せ、責任くらいは…しっかりとるつもりです。」
「ほぅ?書類もあんなに処理されて、俺はやることがなくなってしまったので、こうしてメイに触れるしかありませんね。」
「うっ。しない方が良かったですか?」
「いえ、助かりました。この時間を確保できない事のほうが俺にとってもメイにとっても致命的ですからね。」
ユリは私の首筋に唇を這わせて吸い付いた。
「んっ…。」
「沢山、痕をつけますね。」
「1つで良くありませんか?」
「俺の気がおさまりません。」
その真剣に瞳に私は負けてしまうのだ。観念して大人しく身を任せることにした。しばらく、ユリの熱烈な愛を受けたのち、ゆったりとした時間が訪れた。
「近々王宮でパーティーが開かれます。どうしますか?断りましょうか?」
「いえ、王からの招待は断ってはいけません。出席しましょう。」
「ですが、まだ安定期に入っているわけでもないので心配です。」
ユリは愛おしそうに私のお腹を優しく撫でる。
「私も心配ではあります。ですけど、今後の事を考えると今は出席しておくべきかと思います。」
「でも回帰前は出席してませんでしたよね?」
そう言われてしまうと、何も言えない。 回帰する前はただ脅えるばかりで、ユリも気を使って誘わなかったのだろうと推測できる。
「ここへ来てからの回帰は出席してませんでしたけど、やはり出席すべきな気がします。」
ユリは少し困ったような溜息をついた。
「分かりました。ですが、条件があります。」
「条件?」
ユリは私の手に自分の手を絡めて、ぎゅっと握りしめてきた。
「可愛らしい少女のふりをして、大人しく俺に抱っこされている事が条件です。」
「えぇ!?でも流石にそれは…。」
「貴女に…少しの衝撃も与えたくないんです。」
子犬がくぅーんと泣いているような時の目で見つめられてしまうと、流石に折れるしかなかった。
「分かりました。」
「後、もう少し気になる事があります。2ラウンド目といきましょうか。」
ニタァっと笑いながら私に覆いかぶさるユリ。
「え…正気ですか?」
「はい。」
(ひぇぇぇぇ~~~!!)
―――――――
――――
王宮で開かれるパーティー当日。
華やかな会場には貴族や王室のメンバー、そして招待客たちが集まっていた。 金や宝石で飾り立てられた広間は、喜びと興奮に満ちていた。
ユリと私は、会場の入り口で挨拶を受けてから、華やかなドレスに身を包んでパーティー会場に足を踏み入れた。 私はユリとお揃いの色の赤いドレスを身にまとい、そのドレスの中には、衝撃を抑えるためにたくさんのもこもこの綿が詰められており、華やかながらも安心感があった。は王室のメンバーや貴族たちが優雅に踊る中、私たちもその一部として会場を歩き回った。
ユリは片腕で私をしっかりと抱っこしていた。しかし今日の彼は視線だけで人を殺せそうな顔をしていた。これは私が事前にお願いしたことだ。私が彼の弱点になるわけにはいかないので、それを考慮して、なるべくいつものスタイルを崩さないようにしてほしいと頼んだのだ。
「不服だ。」
「我慢してください…。」
王に挨拶する番が回ってきました。 私はユリの腕にしっかりと抱かれながら、堂々と王の前に進みました。 王の目が私たちに向けられ、私は深々と頭を下げました。
ユリドレは、王に向かって一礼し、不愛想な顔のまま、心のこもっていないようなぶっきらぼうだが丁寧な挨拶を始めた。
「陛下、この度は貴重な機会を与えていただき、誠にありがとうございます。私はレッドナイト公爵家のユリドレと申します。 このたび、妻のメイシールを紹介する機会をいただき、光栄に思います。 彼女は私の生涯の相手であり、心から愛する者です。 私たちは共に歩む道を選び、貴族社会における使命を果たして参ります。 この場を借りて、王と王妃に、そして皆様に、深く感謝申し上げます。」
王は穏やかな表情で二人を見つめ、微笑みながら応えた。
「レッドナイト卿、そしてメイシール夫人、私たちは二人の幸せな結婚を心より祝福する。レッドナイト公爵家の繁栄を願い、共に歩む幸せな未来を願っているぞ。 おめでとう。」
ユリドレとメイシールは、王の前で一礼をしてから、丁重に退場しようとした時、王の隣に立っていた12歳の幼いアジャール王子が「お待ちください。」と引き留めた。
その瞬間ピクリと体がこわばってしまった。実はアジャールと結婚した世界では、ユリを襲った日のお茶会で出会い、見初められたのだ。なので、また一目惚れをされたのではないかと思い、不安がよぎった。
「愛らしいお嬢さん、お名前を聞かせてくれませんか。」
アジャールの問いかけに、メイシールは内心冷や汗が流れるのを感じました。
「アジャール王子殿下、私はメイシール・レッドナイトと申します。大変光栄に存じます。」
「レッド…ナイト…。」
「何を言っておるのだ。アジャール。先程の挨拶を聞いておらんかったのか?お前に剣術を教えておるユリドレが誇る、彼の心に刻まれた最愛の奥方、メイシール・レッドナイトだ。」
王様は王子がメイシールに興味を持っていることを感じ取り、その興味を刺激するためにわざと大袈裟な紹介をしてみせたようだ。
「もう下がって良いぞ。レッドナイト卿。」
王の指示に従って、ユリドレとメイシールは丁重に退場した。
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