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ハシレールガン

出走を明日に控え、私たちは早めに寝床に入った。

言っても馬房(檻)だが。

何というか、コロッセオの猛獣のような気分だ。

今か今かと出番を待つ。緊張と高揚感で鼓動が大きくなる。

一方アシュはというと、私の腹にうずくまって、寝息をたてている。


私もそろそろおやすみしたいのだが。


『なんだぁ、このデブ馬。騎手もガキじゃねぇか。俺の相手にもならなんねーな。』

『デーブ、ザーコ、ザーコ。』


はぁー。

『あの、聞こえてますけど。』


『さっきから何なんですか。お隣さん。』

『えっ、』

『デブって誰の事いってるんですかねぇ。』

アシュ、今日はいつもと様子が違う。

『あっ、えっと。』


『えっ、でも。念話が使える馬は、俺みたいに魔力があって、賢くて、人語が分かる、俺みたいなすごい馬だけ。だろ?』

『はい?』


『まさか、お前っ。』

『迷惑なので、直接脳に話しかけないで貰えますか。』


『なぁ。』


『お前。』


『おい、返事しろよ。』


蹄鉄が激しく柵に当たる。

薄暗い馬小屋に爆音が響き渡る。


「…っるさいなぁー。」


モゾモゾと身じろぎをしてアシュが顔をあげた。

服についた敷き草を払いながらヨロヨロと立ち上がると、騒音のする方へ向かっていった。


『おい、お前に用はねぇんだ。』

ブルルル、と鼻を鳴らすのは憤りを感じているからだ。


「用があんのはこっちだよ。」


ヒヒヒーンッ!


甲高い悲鳴に、周りの馬たちの耳がピンッと立ち、

一帯に緊張が走る。

私は思わず耳を絞ってしまった。

これは怒らせてはいけないタイプの女子だ。

暴れると、更にアシュはつねる指を強めた。

『イテテテテテッ。何すんだよクソアマ。』

「他の子たちが迷惑してんだろうがよ。」


最後にペシっと鼻を叩かれると、あの念話野郎はすっかり耳を倒して、降参の姿勢をとった。


アシュは倒れ込むように私のゴツゴツの腹に横たわった。


ー・ー・ー

翌朝。

『おーい。なぁ。悪かったって。おーい。』


「おはよー愛しのメープル。」

ひひーん。


アイツを尻目に、私たちは小屋を出た。


「嬢ちゃん。やめるなら今のウチだぜ。」

「いえ、結構ですから。」


また何人かのチンピラに絡まれた、というか忠告をされたが、アシュは聞く耳を持たなかった。


朝練を軽めに済ませ、私達は改めてコースの確認に赴いた。


今回のコースはメートル換算で約3000。これでも、この世界では中距離扱いだ。

それだけ、ここの馬は体力があり、しかもケタ違いに早い。


右回りの芝(ほとんど土)コースは、今朝の雨もあって、ぐちょぐちょだ。手入れが行き届いていないのか、あちこちで石が顔を出している。

というか、見るからに空き地に柵を建てただけの簡素なコースだ。


魔力の多い私には“強靭”な母親譲りのスタミナとパワーがある。

私の“爆走”も扱いにくいスキルではあるが、作戦はアシュに一任されている。

アシュ曰く、私のドタドタ走りには父親の“疾走”の面影は無いらしい。

それを聞いた時、ゲルタさんはひどく肩を落としたものだ。


改めて今回の作戦をおさらいしておく。

アシュの偵察によれば、今回出走する馬の多くは体格良い大型馬。体力はあっても雨上がりの硬い地面では速さがポイントとなる。

母のわがままボディの体力とスキル”爆走”のハイブリッドの私には問題なし。


今回も勝てる。


ー・ー・ー


「違法賭博?」

「ああ、儲かるからと言って馬主をだまして闇競馬に出走させるヤカラがいるらしい。」

「そこにアシュが行ったと。」

「草をやめて行くところだ。公認には登録してないんだろ。」

「そんな、まさか。」

「あの子は良い子だ。お前に恩返しでもするつもりなのかもしれんが、止めるなら早い方がいい。」


「…アシュ。」

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