馬好きの転生
アマチュアなので、やや曖昧な部分もありますがご理解ください。
改善点がございましたら、お気軽にお声掛けいただけると嬉しいです。
「そこだぁ〜っ、差せぇぇ〜っ」
「逃げろ〜っ」「オイッ、オーイっ」
沸きかえる観衆。
私は父に頼んで買ってもらった馬券を握りしめ、じっとゴールを見つめた。
「「ウオォォォォォ〜〜!」」
一頭、二頭とゴールラインを越える。
私は複勝で見事当てた。ただ、未成年なのでお金はかけていない。
「やった。」
「おぉ〜すごい。さつき、さすがやな。」
私はそこまで嬉しくなかったが、父は負けたにも関わらず、有頂天だった。高揚が冷めないうちに、欲しかった馬のぬいぐるみをねだると、父は快く了承した。
私の名前はさつき16歳。だけど、4月生まれだ。
きっと競馬好きの父が決めたのだろう。
別に嫌ではなかったけれど、特別好きでもなかった。
まぁ、そんな事はさておき、私は大の競馬好きだ。
賭け事には興味がないけど、いつも地を駆ける馬たちの姿に見惚れてしまう。波打つ筋肉、素早く出される細い脚、風になびくたてがみ。
気づけば幼稚園の頃からクレヨンで馬を描いていた。
テレビ中継でパドックや、本馬場が映れば父の隣で画面に目を見開いていた。
私の馬愛は今も変わらない。
異世界転生ものが流行り真っ最中の頃、私はふと、もし転生できたら、何になりたいだろう、と考えてみた。
答えは一つ、競走馬になりたい。
ムチで叩かれるのも、負けて怒号を浴びせられるのは嫌だ。しかし、あの最後の直線を駆け抜ける快感、湧き上がる歓声、レースで勝ちさえすれば得られるものはあの頃の私にはどれも魅力的すぎた。
ある日、体育の持久走の途中、私は死んだ。急に心臓が止まったらしい。
ああ、持久力だけが唯一の取り柄だったのに。
記録更新は出来ないな。
薄れる意識が一瞬引き戻された。
向こうではAEDでの必死の蘇生が行われていた。
自動体外式除細動器、この前保健の授業でやったっけ。まさか自分に使われる日が来るとは。
糸がプツンと切れた。
すると、私は訳の分からない疎外感に襲われた。
まるで、この世界に居てはいけないと言われているような。
そうだ。私は死んだんだ。
不思議と心がその事実を受け止めた。
でも、
友達や家族の事を思うと涙が止まらない。
お別れすら、出来ずに死ぬなんて。
他にもあれやこれやと考えては声をあげて泣いた。
でも、声は出なかった。口もない。涙も私が想像しているに過ぎない。
私は意識だけになってしまったようだ。
っと思っていると、だんだん意識が薄くなって、どこかに吸い込まれるような錯覚がした。
みんな、さよなら。
糸がまた繋がった。