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我生まれ変わっても外道なり

脊髄反射拳!シュッシュッシュ

 「.......ッ!この外道!!!」


 甲高い声が響き渡る。


 外道?ゲドウ、げどう.......


 「.......!」


その瞬間、頭に鋭い痛みが走る。


思わず頭を押さえ、後退。壁に手をつき体を支え、もう片方の手で頭を押さえる。


 何だ....ッ!! なんだこれは!


次々と浮かんでくる、自分とは全く違う人間の記憶。しかしどれも要領を得ず、つい先ほど考えていたことを忘れてしまったときのようなモヤモヤと頭痛だけが残り正常な思考を再開できない。


本当に許容することの出来ない痛みを感じたときはもはや声すらも出ないと言うがそれは実に正しい。痛みに脳が思考を割ききっているために他のことは考えることが出来ず、その結果図らずも目の前でとある目的から捕まえていた女を逃がしてしまう。


 「うがぁっっッ......うぅ..あぁぁぁアア!!」


そして脳は働き出す。


――――目が覚めた。


 その場で倒れてしまっていたらしい。一応俺は、伯爵家の跡取りなんだが誰もベッドまで運ぶことをしないとはどういうことだろうか?まさか、倒れてから数えるほどの時間しかたっていないわけではあるまい。後でこの屋敷で働いている者達全員から話を聞く必要があるな。まぁ、それはともかく今はあの忌々しい痛みとともにやってきた迷惑な記憶について考えようじゃ無いか。


 深呼吸をしてゆっくりゆっくり記憶を精査していく。


 「俺が生まれ変わる前の記憶か......?.......今の俺は、フェラート・リンデブルズ。リンデブルズ伯

爵家の跡取りで10才......前世は.....?前世??なんだその言葉は???」


俺の知らない筈の言葉が自然と口から出ているだと....?? いや、今はそれも置いておく。続きだ。


 「前世.....生まれ変わる前の俺は....ッ!!」


ふぅー、ふぅー生まれ変わる前を一気に思い出そうとすれば再び痛みがやってくる。ゆっくり、ゆっくりだ。


 「げどう......そう言われていたのか....? そして.....」


 「何故俺は......俺のことを知っている.......?!」


おかしくはない。何もおかしくは無いはずだ。いや、おかしい......おかしすぎる!!生まれ変わる前の自分が何故今の俺を知っている!?そこをもう少し思い出せば.....ぅぅ.......ゆっくり、ゆっくり.....


 「恋愛......ゲーム..?」


俺は、ゲームの中のキャラクター?ゲームとは何だ?....記憶が不完全なのか?.....しかし.....ッ!!


 「クックック......アハハハハハハハハハッ!!ハーハッハッハッハッ八!!!!」


可笑しい、可笑しすぎるぞ。何だ?この記憶は??そのゲームとやらの中に俺が登場するのは構わん、しかし悪役貴族とはどういうことだ?そして、俺は最後は破滅するらしいぞ!?何故そうなるのかまでは分からんが俺は外道な悪役貴族で破滅するらしい....こんな愉快な話があるか!?同時に思い出したる名前と容姿、そして世界観何もかもが一致している!!


 何より、何よりだ。生まれ変わる前に外道と呼ばれ、生まれ変わってなおも外道と呼ばれるキャラになっている。


 「ククク.....アッハッハッハ........」


 どうして、こんなにも愉快で


 「ハッハッハッハッハッ........ハハハ..............え?」


 どうして、こんなにも.........悲しいんだ?


 ポロポロと目尻から涙がこぼれ落ちてくる。何故だ.....?思い出してからだ.....知らない筈の言葉を知っており、恋愛ゲームとやらの中の自分を知った途端笑いと、涙がこみ上げてくる。


 破滅するのが、怖いのか?.....いや、違う.......


 悲しいんだ。ただひたすらに、悲しい。何に対する悲しみなのかは分からない。行き場のない怒りというのは聞いたこともあるし、知っている。実際に体感したこともある。しかし、行き場のない悲しみは初めてだ。何が原因かも分からず、しかし胸に悲しみがこみ上げてくる。普通であれば、精神の異常を訴えるところだが原因に心当たりはあるため医療教会には行かなくてもいいだろう....


何故だ......?この記憶は不完全だ。明らかに欠落している部分がある。そして、そこにこそ重要なことがあるはずなのだ。しかし、思い出せない分からない。思い出そうとすれば、深く深く考えれば、再び痛みが蘇ってくる.......今分かっていることは、ボクノ前世とフェラートの特徴と未来だけ......


 ボク......???......何だボクって.......??....俺は.........俺だ......!!


 再び鋭痛

 

 「チッ!。重要な部分は全てだんまりか........随分と偉そうじゃないか、不完全な記憶ごときが......!!」


 今まで人をけなしてきたことも動物をけなしてきたこともあった。しかし、記憶に対してこけ下ろすようなことは初めてだ。まァ、八つ当たりするくらいいいだろう。思い出せなければ破滅の未来とやらが待っているのだから。


 まあいい。記憶の精査は終わった。これ以上は思い出せんだろう、方法を考えるとしても今は保留だ。


 とりあえず..........使用人達を呼び出すか



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 「それで、一体どういうことだ?.............お前達全員何故、俺を放置した......?」


 我が伯爵家は伯爵としての力を持っていることには持っているが、それだけだ。貧乏でも無ければ金持ちでもない。平凡な伯爵家。故に、屋敷も働いている使用人全員を集めても収まる場所など限りがある。


 今回はエントランスだ。


 「そ、それは........フェラート様がまさか倒れているとはおもわな「思わなかったとは、言わせんぞ」」


 代表して執事の一人が発言していたのを遮る。


 「中で異常が起きていたのは分かっていたはずだ。あれだけ、あの女が騒いでいたんだからな?あの女が部屋から飛び出してきたはずだぞ?俺が出てこないのが不自然だとは思わなかったのか?」


 使用人達は誰も俺とは目を合わせずに下を見て震えている。


 「なにより、あの女が飛び出してきてから少なくとも一時間は経過していたはずだ。にもかかわらず、急に静まりかえった部屋に対して何もお前達は思わないのか?俺があの女を逃がすわけが無いと知っているはずなのに何も思わないのか?」


 衣装人達の顔がどんどん青ざめていく。


 「そして、俺が部屋から出てこられないように細工していたな........?」


 その瞬間何人かの使用人の体が震え出す。そうだ、こいつらは俺が部屋から出られないように細工をしていた。記憶の精査が終わり、部屋の外に出ようとしたときふと握ったドアノブに違和感を感じた。いつもよりも回すのにほんの少し抵抗がある、その程度のものだったが俺が倒れていても部屋の中に放置されていたことから気になってドアノブを調べて見たら........外側のドアノブの一部が変形しているのを発見した。


 「どうやら、佩眼(はいがん)している奴が他にもいるようだな?」


 自身の口角が上がっていくのを感じる。佩眼(・・)している奴がまさか、二人も(・・・)いたとは.....


 「で?、何処だ」


 もはや真っ青を通り越して真っ白になっている使用人達に問いかける。 


 「言わないのか?......別に裸眼とは言え、代わりが何人いても構わんのだぞ?」


 それでも、頑なに口を開かない使用人達。表情はほとんど真っ白を通り越して土気色に変わっているにもかかわらず、そこまでして何故隠している?どうせ、この屋敷にいる以上見つかるのは時間の問題........


 まさか.......!!


 「おい!、あの女は今どこにいるッ!?」


 「「「................. 」」」


 「!.....ッ...答えろッ!!!」


 近くにいた使用人を蹴飛ばす。


 「「「.....ッ........!!」」」


 蹴飛ばされた使用人に別の使用人達が駆け寄る。俺の時は誰も来なかったのに、だ。


 「チィッ!!」


 舌打ちをして走り出す。処分は後だ。今は何よりあの女を見つけなければならない。おそらく、もう一人の佩眼している奴も近くにいるだろう。急げ!せっかく見つけた「上位眼(・・・)」を逃すわけにはいかん!


 



 数刻後





 「ッ.......クソがッ!!!!」



 屋敷中を探し回ったがどこにもいない。隠れているかもしれないがそれはあり得ない。この屋敷のことはよく知っている。タンスや布団、あるものはみんなどかして確認した。しかし、何処にもいない。私兵に屋敷の外を探すように指示もしたが、恐らく見つからないだろう。あの女は屋敷の外に出さないようにしていしたし、私兵にあの女の顔を知っている奴が少ない。それにあの使用人達の態度.....おそらく、俺が気を失っている内にあの女を逃がそうとしていたな.....ついでに佩眼していたやつも一緒に...ともすれば、私兵の中にも協力者がいそうだな...............ふざけるなよ...


 ふざけるなッ!!!! 俺がどんな気持ちで見つけたと思ってる。あいつが、あの女の「眼」があれば!!!今度こそ成功したかもしれんのに!


 腹の底で激情が渦巻く。俺はいつまで待てばいい?全て.....全て佩眼するためだけに費やしてきた。あと少しだ!。「上位眼」さえあれば......!!どいつもこいつも俺の邪魔ばかりしやがって......


 とりあえず.....使用人達にはストックになってもらうか....


 エントランスに向かって歩いて行く。そして、使用人達は逃げ出しているとばかり思っていたが全員その場で待機していた。俺に逆らったけじめをつける気か......こいつら全員本当にいい度胸だ。


 「やってくれたなぁ....お前達の願い通り、奴らは上手く逃げおおせたぞ?そのせいで........また探すところからスタートだ......どうするつもりだッ!!俺の邪魔をするな!!!」


 腹が立つ。本当に腹が立つ。あの女、いや上位眼を見つけるためにたくさんの時間をかけた。たくさんの物を投げ打った。金もその他も何もかも!なのに、なのにこいつらは......!!


「見せしめが必要のようだな。」


 そして、先ほど全員を代表して話をしていた。執事を指指さす。


 「お前が一番良さそうだな、来い!」


 「そんなッ!!、ネル!」


 「お待ちくださいフェラート様!ネルは何もしておりませんッ!!!」


 「処分なら私が受けますからッ.....どうかネルのことは......」


 「くどいッ!」


 一喝して全員を黙らせる。


 「俺は何回も聞いたはずだぞあの女はどこにいるのかと!上位眼を見つけるのにどれだけ苦労したと思っている!?それを全て台無しにしやがって!!この場にいる全員を処分してやりたいところだがそれをこいつ一人で済ましてやると言っている!!これ以上俺の邪魔をすることは許さん!!!早く来いッ!!!」


 指を指した執事が震えながら前に出てくる。そして、俺の前まで来てから地面に蹲る。


 「どうか....どうかお許し下さい.....私には妻と子供もおります。今、私が消えれば妻子を.....路頭に迷わせることになります。でずがら.......どうかどうか!!!」


 「ならば、俺の邪魔をしなければよかったものを.....早くしろ、..立てッ!!!」


すると、その執事は涙を流しながら必死に俺の足下にすがりついてきた。


 「おねがいじま.....す、あの子を.....ひ...どりっ.....に...ずるわけに、は....いがなぁいんだよぉッ!!!」


 そう叫びながら、俺にすがりつこうとする男の顔を蹴り上げる。


 「なら、お前の妻子も連れてくるか?....」


 そう言い放った瞬間にこの場の空気が凍った。


 使用人達から批難するような視線が飛んでくる。中には貴族である俺のことを睨み付ける奴もいる


 「お前達........何だ?その目は....!!」


 コイツラ、全員ケシテヤロウカ?


 頭に血が上る

 呼吸が荒くなる

 体が震える


 こんなにも馬鹿にされるのは始めてだ。妻子がいる?.....ならこんなことしなければよかった。路頭に迷うなど知ったことではないそもそもがッ!!こいつらが邪魔をしなければよかっただけの話だ!!!費やした時間と対価の保証すら出来ない使用人ごときが自分の要望が通るなどと思うなよ!!


 「ハァ~、やめだ止め.....こいつ一人じゃ無くてお前ら全員消えてもらう」


 「安心しろ、家族も全員一緒に消してやる」


 「うっ......うあああああああああああ!!」


 足下で泣いていた執事が襲いかかってくる。やけを起こしたようだ。だが、焦る必要は無い。


 例え、10歳といえどもただ、感情のままにその力のみに従った行動に何故焦る必要があるだろうか?


 ―――――力には方向性があります。


 例え同じ、力の大きさでもその範囲が広くなればなるほど威力は分散することにより下がり、狭くなればなるほど集中するために威力は上がる。面と点だ。そして、何より肝心なのは流れ。


 溝に沿って水が流れる川のように動作の一つ一つの流れによりまた、力の大きさもそれに伴う威力も変わってくる。これらの流れや力を受け止めることを防御というが.......


 何故....受け止める必要があるだろうか?


 こちらに一直線に向かって飛んでくる物を「受けて」「止める」事などなんと力の無駄なことか、


 ただ、向かう先をそらしてやればいい。必要最小限の力で、受け流す。そうだったよな?


 だから俺は向かってくる男を投げ飛ばした。

 こちらに向かってくる勢いを利用して重心を移動させることによる返し技。


 

 柔よく剛を制するだったか?



 そして、数秒後空中に舞った男が俺の後ろにあった階段に激突した。


 久しぶりの格闘とも呼べぬが、格闘により随分と頭が冷静になってきた。男が階段に激突して動かなくなったことからも溜飲は下がった。まあ、こいつらを許しはせんけどな。


 さて、この男が俺に対して危害を加えようとしたこと。それを誰も止めようとしなかった事から、この場にいる全員もはや生かしておく理由は無いな。


 俺は激突した男から視線を外し、振り返る。


 「全員覚悟は出来ているな?、今までご苦労だった。安心しろ、家族もすぐお前達と同じ場所に送ってやる一人にすることも苦しめることも無いぞ?親戚の子が気になるというなら親戚も全員殺してやる。」


 終に、膝をつき嗚咽を漏らして泣き始める使用人一同。


 

 

 しかし、俺には理解が出来なかった。


 何故、俺が悪者のようになっているのだろうか?

 何故、こいつらは俺に逆らってまで奴らを逃がそうとしたのか?

 何故、あのタイミングで前世の記憶を思い出したのか


 分らぬことだらけだ。


 だが、とりあえず問題の一つは消えるだろう。

脱字、矛盾等ありましたら良ければ教えてクレメンス

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