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灼熱地球  作者: 紫 和春
11/12

第11話 対応

 台風が通過した後の沖縄。そこにはもう、以前のような活気は見当たらなかった。

 散乱する瓦礫。どこからやってきたかも分からない土砂。街中はまるで、缶詰の中でシェイクされたような状態であった。

 行方不明者も、過去の台風による被害の中でトップクラスの数になってしまった。

 そんな中、内閣は今回の台風を激甚災害と認定。すぐさま自衛隊の災害派遣が決定した。

 そして、内閣と政府は一つの決断をする。

『政府は先ほど、アメリカで実施されている国民の任意の避難計画を、日本でも採用することを決定しました。先ほど会見で発表した官房長官の話によりますと、東京以南に住む国民が対象で、直ちに、遅滞なく行われるようにするとの事です』

 その発表で、日本に衝撃が走った。特に、現場とすり合わせをするリエゾンや警察関係者が大慌てである。

「今すぐ西日本全域の国民の避難なんて無理です!」

「東京より南側と考えると、少なくとも4000万人が対象です。任意とはいえ、無茶苦茶ですよ!」

「それでもなんとかしなければならない。これは国民の命がかかっているんだ」

 国民のために働くと誓った公務員は、すぐに避難の要領作成に入る。

『さらに官房長官は、国民の避難に関することならば、国の財源で補填する事も示唆しました。例として、鉄道各社、航空会社、バス会社などに働きかけを行い、移動にかかる費用などを負担するとの認識を示しました』

 当然のことだが、新聞各社はすぐに号外を配布し、速報を流す。とあるニュースサイトでは、今回の避難計画を「国民大移動」などと揶揄していた。

 数日中に正式なプレスリリースが公開される。西日本を中心とした北緯35度40分より南の地域を「避難推奨地域」と設定し、約4500万人に対して避難を呼びかけるというものであった。

 しかし、この避難は任意のものである上に、国民が住んでいる場所には公務員がいるべきとの思想から公務員は避難の対象外となっている。これが有識者から、職業によって避難の自由を奪っている差別的行為であるとの指摘をされた。

 だが、そんなことを言っていられる状況ではない。人間の都合など、気候変動は聞いてはくれないからだ。

 そんな中、地味に避難対象地域に住んでいる川口は、国民避難計画が発表されてから覚悟を決めていた。

「強制じゃないなら、別に逃げなくてもいいだろ」

 そんな考えであった。だがこれは決して楽観視しているからではない。

「俺は、天気予報で多くの人を救うって決めた人間だからな」

 自分一人の命で、より多くの命を助ける。その信念を持って現在地に留まり続けているのだ。

 川口は己のやるべきことをするために、現在週に1回のペースで相模原に出向いているが、ここで少々問題が発生している。

 政府が国民避難計画をしている中で、ちゃっかりと首都機能を移転しようとしているのだ。中央省庁がやられてしまっては、国が成り行かないという苦渋の決断であっただろう。

 その中央省庁再配置に、気象庁も含まれているのだ。その作業が入ってしまったため、気象庁からの人員が削られてしまっているのだ。

 さらに悪いことに、気象レポート株式会社の方も、本社と相模原オフィスに所属する社員のうち2割が避難を選択する状態にある。ただ民間企業である気象レポート株式会社は、リモートワークにも力を入れているため、仕事の処理的な意味合いでは問題はないとしている。

 さて、梅雨も明けて本格的に本番になってきた。

 そんな中川口は、減便されている電車に乗り込んで相模原の合同会社に向かっていた。この日も気象モデルの構築を進めるためだ。

 連日40℃超えという災害級の気温の中、相模原オフィスに到着する川口。社員証代わりの紙の身分証明証を受付で提示して中に入る。

「お疲れ様でーす」

「川口君、お疲れ様」

 鴨井が挨拶を返す。

「外暑くなかった?」

「滅茶苦茶暑いです。もう背中が汗びっしょりで」

「そうだよね。最近は夜でも暑苦しいし」

 そんな話をしながら、気象モデルの構築に入る。

「そういえば川口君、今日のニュース見た? もしかしたら計画停電するかもしれないって話」

「あぁ、見ました。電力逼迫してるんでしたっけ?」

「そうそう。最近いろんな発電所が古くなってきてるかららしいけど、こっちにしてみればたまったもんじゃないよね」

「それもそうですねー」

「一応説明しておくけど、今気象モデルが入ってるサーバは会社の非常電源で動いてるから、安心してね。もし非常電源が止まっちゃったら、サーバのデータ全部飛んじゃうから」

「それはまた恐ろしい話を……」

 そんなことを言っている時だった。

 突然、オフィスの電灯が全て消えたのだ。

「あー! 作業データ飛んだー!」

「うわぁぁぁ!」

 絶叫がオフィスに響き渡る。

 川口が作業していたのはノートPCであったため、何とか難は逃れた。

「マジで停電するのか……。どの辺が停電してるんだろ?」

 鴨井は呑気に、スマホで停電している地域を調べる。

「あー、関東圏内全域駄目みたいだね。おまけに酷暑のせいで送電設備が壊れてるみたい」

「それじゃあしばらくは停電したままですね……」

「そうだね。ところで川口君、帰りの電車は大丈夫?」

「……あ」

 電車の代わりに、気象レポート株式会社の社員が車を出してくれた。これで川口はなんとかアパートに戻ることが出来た。

「やっぱ石油って偉大ですね」

「そうだねぇ。世界が石油の供給を止めてなくて正解だったねぇ」

 アパートに到着した川口は、研究室の事が気になったため、大学に向かう。

 研究室に到着すると、暑さでやられそうな同期を発見する。「旧時代」も「短期間地球温暖化モデル」も無事だったようだ。

「このままでは大変だ……。早く気象モデルの構築を進めなくては……」

 そう決意し直したのであった。

 なお、今回の停電は4日ほど続いたという。

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