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灼熱地球  作者: 紫 和春
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第1話 シミュレーション

 時は西暦2068年。

 特に大きな技術革新もなく、技術的特異点(シンギュラリティ)を超えた世界。

 6月にも関わらず、ジリジリと照りつける太陽を恨みながら、川口太旗(たき)は大学に向かって走っていた。

 コンクリートジャングルを抜けて、川崎令和大学のキャンパスへと入る。そこの理学部地球環境学科がある建物に入った。

「あっちぃ……。今梅雨だよな?」

 大量の汗をかきながら、エレベーターに乗る。この建物の4階に、彼の所属する研究室があるのだ。

 川崎令和大学理学部では、3年生になるとそれぞれの研究室に配属される。4年生の研究を簡単に手伝いながら、専門科目の単位を取得するために勉強するのだ。

 それに、川口には一つの夢がある。それは気象予報士になることだ。そのためには地球環境学科のエキスパート課程を履修する必要がある。そういったこともあり、この大学に通っているのだ。

 さてこの日は、研究室の先生から課題として論文を渡される日である。この論文を読み込み、春学期の最後のゼミで発表するのだ。

 エレベーターを降り、いくつかの研究室の前を過ぎると、自分の研究室である山下研究室に到着する。

 扉を開けると、ガンガンに効いたエアコンの風を感じるだろう。

「はぁー……、涼し」

「おっす、川口」

 そこには同じゼミの友人がいた。手にはアイスとスマホを持っており、ニュース映像を見ていた。

『……この後の3ヶ月予報ですが、全国的におおむね平年並みか平年より高い気温になると見られます。それに伴い、全国的にゲリラ豪雨が増える見込みです。詳しく見ていきますと、東京で45℃、名古屋で48℃、大阪で46℃となるでしょう。熱中症に十分ご注意ください』

「あーあ、毎年毎年平年以上って言ってるじゃねぇか。いつ平年以下になるんだよ。結局パリ協定の後継のロサンゼルス協定も2075年まで延長されたし、見通し甘いんだよなぁ」

 川口の友人の一人が言う。

「確かSDGsも期間延長したんじゃなかったっけ?」

「あぁ、ニュースでやってたな。その辺の時事問題も頭に入れて就活しなきゃなぁ」

 同じゼミの連中が話す。

「なぁ、川口って気象予報士目指してるんだろ? 実際この後の天気ってどうなるん? 気温上がり続けるのか?」

「そうは言われても……。おおむね予報通りじゃないかなぁ……?」

「そうか……。このままじゃ熱中症か何かで溶けそうだよ」

 ワイワイとそんな話をする。

 その後ゼミが始まり、先生がそれぞれ論文を渡す。全員が違う論文であるため、一人で頑張るしかない。

 ゼミが終わると、川口は先輩の卒業研究の手伝いをする。これは来年、自分が卒業研究をする時に受け継ぐ研究であるため、しっかりと理解する必要がある。

 川口が来年行う研究は、コンピュータ上で地球の気象モデルを再現して将来の世界規模の気象変動を予想したり、人類の活動限界を探るというものだ。これまでの先輩方が残していった大切なデータがあるため、取り扱いには注意する必要がある。

 そんな中、川口は常々考えていることがあった。

「もし、今の氷河期が終わったら……」

 2068年現在、地球は氷河期の中でも間氷期と呼ばれる気候である。氷河期の中でも比較的温暖な気候であり、人類が生活するには都合が良い。しかし、近年の急激な気候変動が問題になってきているのは周知の事実だろう。この気候変動は産業革命以来の問題であり、今後も気温が上昇し続けるという予想がある。

 だが、これが氷河期の終わりとしたら。ここ200年の気温上昇が氷河明けの前兆だとしたら。

 それはそれで問題になるだろう。

 現在は第四紀氷河時代と言われ、その間氷期であるとされる。これの前の温暖な気候の時代はちょうど恐竜が生きていたジュラ紀から白亜紀の時代と一致する。すなわち、今氷河期が終われば、恐竜時代の気候へと変動するのだ。

 だが、それだけでは一人の人間の妄想で終わるだろう。証拠が必要だ。そこで目を付けたのが、卒業研究で行う気象モデルの改変である。この気象モデルに手を加えて、地球全体のシミュレーションを行うことが出来れば、これからの地球がどうなるのかが分かるだろう。

 だが、ただの学生が卒業研究のデータを使うなんてことはできない。そこで担当の先生である山下先生に聞いてみることにした。

「言葉を言い換えてみれば、将来的な地球環境の変動の予測って所か……」

 山下先生は、手を顎にやって考える。

「今の研究から派生する形でやるなら問題ないかな。川口君個人での卒研になるけど大丈夫?」

「問題ないです」

「そうしたら、予備のパソコンがあるから、それを使ったほうが良いね。念のためこれまでの気象モデルのバックアップも取っておこうか。」

 こうして、これまで使っていた気象モデルを予備の廉価版量子コンピュータに移植し、新しい設定をする。その際、川口が考える独自の設定と数値をいじることにした。

「まずはこれで数日様子をみようか。ちゃんと記録は取っておくように」

「はい」

 こうしてシミュレーションが開始された。

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