駆け出す夢
墜星暦5951年夏
海軍最大の軍港として有名な街の、丘の上の住宅街、爽やかな潮風に若葉のそよぐ一軒家で
「はい、はい…こちらこそよろしくお願いします。はい、失礼します。」
今年度大学卒業を控える少女はフウゥと、一息ついて受話器を丁寧に置く。そして、
「ぃよっっしゃあぁぁぁぁーー!」
拳を突き上げて叫んだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
やった!やった!受かったんだ!連邦国家公務員試験2種の最終合格者が希望できる勤め先、その中でも難関と名高い『人口維持庁男性保護局』、そこから採用の通知をもらった。
もちろん私の第一希望、というかここしか目指していない憧れの職場だ。
ふふっ見ているか?姉よ、『やればできる子』のとおりやってやったぞ!
ゴッ「っあ゛ぁ〜」
あまりの嬉しさに踊っていたら、電話機の台に足の小指をぶつけた。なぜ、そこにあるぅ〜?我が小指ぃ〜?
脳内に現れた姉が『精々頑張りなさいよ』と肩をすくめたが、脳内から追い出す。大きなお世話だ。
我ながら信じられない、筆記は自信があったが面接でボロが出ないか冷や汗ものだった。倍率を考えると奇跡じゃないだろうか?
その後の私は、しばらく人様には見せられない顔をしていただろう。なにせ、国家公務員の中でもエリートに類される『人口維持庁』その花形部門『保護局』だ、あぁ全能の神と無貌の亜神たちよ、貴女方のこの采配と選択に感謝します。
柄にもなく祈ってしまった。ハイになりすぎたかな?
外に出て深呼吸をすると、眼下の埠頭に同盟国の戦艦が停泊していた。確か名前は『Yamato』だったか、いつかあの船の祖国に行ってみたい。
世界で唯一の『1:1』の彼の国に。これはその夢への第一歩だ。
「待ってろよ〜!」
だが舞い上がる私は忘れていた。軍隊より厳しい、とされる連邦保護局訓練校の存在を。