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かくして少年は迷宮を駆ける  ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~    作者: あかのまに
外伝編 ある日の彼ら彼女らの日常または非日常② [時系列黒炎砂漠編直後]
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スーアの休日



 天祈のスーアの朝は早い。

 太陽が昇ると共に目を覚ますと、従者達と、手すきの精霊達によって身支度をしてもらう。それが済むと、バベルの塔の【祈祷の間】にて祈りを献げる。バベルにその魔力を収納めるのだ。多くの都市民達と同じ義務をこなした後も、スーアの仕事は終わらない。無数の精霊達と交信を行い、その力を都市運営に必要な場所へと分け与えていく。

 生産都市を主とした、都市運営に必要なだけの力を分けて、振るっていく。

 人類の生存圏を維持し続ける為の必要な処置だ。とはいえ、無論スーア無しでは都市維持が困難な構造では、破綻は見えている。その為、定期的に複数人の高位神官がスーアに代わって精霊達との交信を行う日がある。


 今日はその日だった。つまり、休みだ。


 無論、珍しくその日は午後からしっかりとしたお休みの日だった。さて、どうしようか、と、スーアは考えた。そして、


「外へ遊びに行きましょうか」


 そう発言した瞬間、スーア達の背後で従者達が即座に立ち上がり、そして身構えた。あからさまな臨戦態勢に入った。その内の一人が進み出て、ゆっくりと手を上げた。


「スーア様、外へ、ですか?」

「止めた方が良いです?」


 スーアは尋ねる。彼女たちがそうした方が良いと言うのなら、やめておこうとは思う。先日も「あまり従者達を心配させないように」と父から言われたばかりだ。とても残念ではあるが、仕方の無いことだ。

 すると、スーアの表情を見た従者は、凄まじく悩ましそうに顔を歪めたあと、なにかを決意したかのように頷いた。


「……いいえ、スーア様は日々、我々では計り知れないほどのとてつもない責務を果たしています。友人と遊ぶくらいの事は、許されても良いはずです」

「そうですか?」

「ええ、そうです」


 従者は頷く。スーアは喜んだ。そういってくれるなら、安心して遊びにいこう。


「ただできれば転―――」

「いってきます」


 次の瞬間、スーアは転移した。

 従者は全員、頭を抱えた。




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 【竜吞ウーガ】、ウルの自宅


 半ば、ギルドハウスと化しているウルの自宅には、今日も来訪客が来ていた。と言っても、大体いつもいるシズクに、今日は時間が合ったのでアカネと共にやってきていたディズの4人で、比較的静かな時間を過ごしていた。


「皆様、お茶でも煎れましょうか」

「あー……頼むわ。助かる」


 シズクの提案に、グリードの迷宮資料を眺めていたウルは頷く。なんともまあ、穏やかな時間が流れていた。


「遊びに来ました」


 そこにスーアが転移してきて、穏やかな時間が終わった。


「アカネ、一緒に遊びましょう」

《えーよー》


 アカネが即答し、ウルは頭を抱えた。えらいことになってしまった。

 ディズは真顔で固まり、シズクは「5人分のお茶を煎れて参りますね?」と、実に爽やかな対応をしてウルに目配せした。どうやらプラウディアへの連絡はシズクが受け持ってくれるらしい。それは助かる、が、ソレでこの後どうしろというのだ。

 比較的慣れている可能性があるディズに目配せすると、彼女も首を横に振った。ちょっと目が死んでいた。


《なにする?》

「友達あまりいたことがないのでわかりません」

《そっかー。しょーがないわねー》


 ウルが機能停止している間に、二人の会話はぽんぽんと進んだ。ウルもディズも絶対にこのままでは不味いと言うことは理解していたが、まるで口を挟む隙は無かった。


《わたしがあんないするのよ!わたしもあんましらんけど!!》

「すごいです」


 スーアは拍手した。えらいことになった。



              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 竜吞ウーガ生産区画、食糧研究室。

 グルフィンは今日も食糧加工に頭を悩ませていた。幸いにして、質の良い家畜を獲得出来た為、ウーガの食糧事情に希望の光が見えてきたモノの、家畜を殖やして、安定供給するにはまだ時間がかかる。それができたとしても、万事解決するかと言えばそうでもない。

 ヒトは肉のみで生きるにあらず。生産都市から何もかも渡された訳では無い。彼は現在、野菜や果実、麦などの様々な品種改良に頭を悩ませていた。

 神官の訓練は本当にいやいやだが、食糧改善に関しては彼は積極的だった。何せ、自分が食べる食事が向上するのだから。そんなわけで彼は割と積極的に仕事をこなしていた。


 とはいえ、不満もある。なにやらしょっちゅう遊びに来て、つまみ食い……ならぬつまみ飲みをしてくる不届き者がいる。そう言っている間に、部屋の入り口からガタガタと音がした。グルフィンはため息をついて振り返った。


《おっちゃーんあそびにきたでー!》

「だれがおっちゃんだ!相変わらず無礼な―――」

「遊びに来ました」

「―――――…………」


 メチャクチャ見覚えのある子供が部屋に入ってきた。ちょっと光ってる。浮いてる。


「少し見させてもらって良いですか?」

「ハイ」


 グルフィンは少しシュッとなって頷いた。何が何だか分からないが現状がとてつもなく不味いことだけは分かっていた。


「此所は何をしているのでしょう」

《ごはんけんきゅうしてるとこー》

「ごはん、なにか食べてみたいです」

《わたしはジュース!》


 キャッキャと楽しそうにする二人を追ってきたウルと勇者は、グルフィンの方をむいた。ディズは、ゆっくりと、優しく微笑みを浮かべながら、グルフィンに語りかけた。


「お仕事中申し訳ない、グルフィンさん。用意してくれるかな?謝礼はするから」

「ハイ」


 シュッとなったまま、グルフィンは頷いた。




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 竜吞ウーガ機関部。


「…………ふむ」


 リーネはウーガ機関部に保管されている“腕輪の聖遺物”を睨みながら、悩ましそうに声を漏らした。聖遺物、精霊がもたらした道具は、通常の魔道具とは大きく異なる。精霊の奇跡を、ヒトの手で使うことが出来る代物だ。勿論、精霊そのものの力と比べればいくらか小規模になるが、それでも十分に人知を超えている。

 以前の騒動で手にすることや管理することとなった聖遺物の一つは、大地の精霊の力が込められている。重力の操作を行えるその力は、やはり魔術の性質からは逸脱している。使用者の精神に反応し、自由に力を発動する。


 やはり、強力な力だ。しかし、それは不安定でもあった。


 盗人達が私的に利用する分には何の問題も無かったのだろう。しかし、ウーガで活用するにはやや、出力が不安定なのは問題だった。制御方法が必要だった。


「【大地の王腕】起動開始」


 強固な硝子の中で、聖遺物が輝きを見せる。計測される力を部下達が記録する。出てくる数字を確認し、リーネは頷いた。


「まあ、悪くは無いかしら」

「問題は、やはり出力でしょうか」

「かなり年代物の聖遺物だということですからね。単純に出力が落ちているのかも」

「あまり不敬なことは言わないように」


 聖遺物を安定化させるための実験は、徐々に成果をもたらし始めていた。とはいえ、まだ出力が足りない。この安定性を維持したまま、いかに出力をあげられるかが、課題の一つだった。

 上手くいけば、ウーガに新たなる機能をもたらすことが可能かもしれない。とはいえ、今のままでは机上の空論でしか無いが―――


《おー、かっくいーなー!》


 と、そんなことを考えていると、来客がやってきた。そっと、部下達に合図を送りながら、リーネはアカネに微笑みを浮かべた。


「アカネ様、ここに入ってきては―――――……」

「聖遺物ですね?」


 そして停止した。

 白くてふわふわしてて此処にいてはならない人物が此処にいる。


「…………はい、その通り、です、スーア様」


 ぎくしゃくしながら言葉を返す。先ほどうっかり精霊に対して不敬な発言をした部下は、顔を青くしたまま息を殺してじっとしていた。正しい判断だった。


「なにか、問題があるのです?」


 此処に貴方がいることが最大の問題点ですが、とは流石に言えなかった。


「安定した聖遺物の運用を試しているのですが、出力がやや足りず。いえ、無論、聖遺物に差し支えがあるわけではないのですが」

「なるほど」


 正直に答えると、スーアは頷く。そして、保管されている【大地の王腕】へと手をかざす。元々さび付いて、どこか色褪せているようにも見えた腕輪は、その瞬間、纏わり付いていたさび付きなどが一気に取り払われ突然輝かしく煌めき始めた。


「コレで大丈夫だと思います」

「―――スゥー…………ありがとうございます」


 リーネは感謝を告げた。深く考えないことにした。




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― 新着の感想 ―
[一言] 悪意のない行動で全員の胃に穴空けていくぅー!!
[一言] 外伝のグルフィン先生に毎回心臓に悪いイベント襲いかかるの笑う スーア様みたいな人来た時も応対の適任者になれる便利なおっちゃん…… アカネが当然のようにたかりに来るという事は前からなんだかんだ…
[一言] 内心ウッキウキなんだろうなあ……。
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