リスタート②
【黒炎砂漠・第四層】 攻略再開1日目
「やっぱり土竜蛇は広間の外に誘導できる。番兵の領域外で地面を刺激させればいい」
「……昔もう少し慎重にやってりゃあ……」
「当時コイツラが潜んでたと知らなかったんだから仕方ない。だが補充されるのか?」
「地下迷宮みてえにぽこじゃかは沸かねえ。少なくとも倒した傍から沸いて出てくるようなことは今までなかった」
「じゃ、今日は土竜蛇削るだけ削るか。やってくる」
「待てバカ!一人で行くな俺も行く!あぶなっかしいんだよお前の動き!!」
「頼む」
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【黒炎砂漠・第四層】 攻略再開2日目
「昨日今日で黒炎の土竜蛇は削れた……か?」
「50匹は殺したか?……てかこんなに残ってやがったのかよ嘘だろ」
「そりゃこの数に襲われながらあの番兵とやりあったら戦線崩壊するな」
「クソッタレ……だが、結局あの巨人はどうする気だ?」
「正面から馬鹿正直にやるのは流石にバカだな。敵は喰らったら終わりの黒炎なんて使ってるんだから」
「じゃ、どうすんだよ」
「色々試すか」
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【黒炎砂漠・第四層】 攻略再開3日目
「広間の範囲は半円形、砂漠を区切る黒炎の壁の間近で巨人は徘徊。広間に一歩でも脚を踏み入れれば巨人は反応する。だが逆を言えば入り込まなければ良い」
「で、その竜牙槍の咆吼かよ……」
「何か言いたげだな?」
「やったらいいじゃねえか。試してみろよ」
「【咆吼】…………………む」
「な?」
「弾かれたな……?【黒金製】か」
「燃えさかる黒炎で分かりづらいがな。魔術の通りが異常に悪い。遠距離攻撃が通じない」
「まあ、流石に試すわな。昔のあんたらも」
「で、諦めて近接して土竜蛇に襲われてごちゃって終わりだ」
「今は土竜蛇から襲われるリスクは低い……が」
「巨人は単体でも普通に強いからな!無策で戦うもんじゃねえ!」
「ごもっとも」
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【黒炎砂漠・第四層】 攻略再開4日目
「咆吼×、魔術×、投石△、やっぱ物質的な攻撃の方がマシか」
「黒炎壁が近くにあるからしょっぱいダメージはすぐに回復する!クソが!」
「背中の黒炎の壁が魔力供給か。暴走させて魔力切れなんて無理そうだな」
「魔導核の位置はハッキリしてんだ。腹んなかだ」
「確定なのか?」
「アナスタシアだ」
「運命の聖眼ってやつか。じゃあそれは信頼するか……だが、嫌な場所だな」
「一番オーソドックスで、一番守りが堅い。しかもその位置も黒炎は燃え移ってる」
「黒炎黒炎黒炎……か」
「手っ取り早く消火できりゃいいんだが、それができるのは【竜殺し】だけだ」
「ダヴィネの切り札か。試したか?」
「製造にも手間がかかる貴重品だ!下手うってロスったら大損害だ!勝てる見込みのねえ奴に隊長もダヴィネも許可なんてしねえって!」
「ふうむ」
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【黒炎砂漠・第四層】 攻略再開5日目
「大罪竜の呪いの血ぃ?」
「竜殺しがどういう代物かわからねえけど、これも効果あるかなって」
「……んなもんどっから取ってきたよ」
「企業秘密。まあいいだろ。試してみよう。槍の先端になすって……」
「……なんか見た目しょぼくねえ?汚くねえ?」
「投げる」
「…………お前、よくあんなとこまで飛ばせるなあ……」
「当たった」
「当たったなあ」
「刺さった」
「刺さったなあ」
「……………黒炎の炎上状態に変化無し」
「ねえなあ」
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【黒炎砂漠・第四層】 攻略再開7日目
「うーわ、コソコソしてると思ったらお前らまじで何してんだよ?」
「今更番兵退治とかバカだろバカ」
「う、うっせえな!茶化しに来たんなら帰れよバカゲイツ!ウルもなんか言ってやれ!」
「なんだちょうどいいじゃないか。2人だと意見が煮詰まって困ってたんだ。意見くれよ」
「はぁー?なんで俺らがそんなことしなきゃならね「参加者特典、コイン、酒、飯大盛りチケット、ダヴィネから仕入れた嗜好品複数」……まあ、ちょっとくらいなら」
「ついでにお茶もついてくる」
「それはいらねえ」
「身体にいいんだぞ」
「いらねえ」
「カラフルだぞ」
「それのどこがアピールポイントになると思ってんだお前は!?」
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【黒炎砂漠・第四層】 攻略再開10日目
「レイ。ウルとガザをみなかったか」
「隊長」
黒炎払いの本拠地にて、射手のレイはボルドーの問いにはてと本拠地を見回した。確かに彼の言うとおり、あの男ども二人の姿は見かけない。最近よく二人でつるんでいる所はよくみるが、今日は一度も見ていない。
「昼からの巡回は奴らだ。逃げるような奴らではないが、忘れている可能性はありうる」
「……探してきます」
「済まないが頼むぞ」
やれやれ、と、レイは溜息をついて立ち上がる。
とりあえずは思い当たる場所に彼女は向かった。二人はこそこそと、【黒炎払い】の他の連中から見つからないようにしているが、【超聴覚】の技能を持った彼女には筒抜けだ。
本拠地を出て、殆ど使われていない階段を昇っていく。この地下牢で地上にほど近い場所は忌み嫌われている。いつ黒炎鬼がやってくるか分からない。と恐れられているのだ。しかし裏を返せば人目から隠れるなら絶好の場所と言えた。
「…………だから……で」
「そう…………いける……」
地上にほど近い廊下を進んでいくと、徐々に複数人の声が聞こえてくる。レイは溜息をついて、誰も使っていない地下の一室の扉をノックもせずに立ち入った。
「何しているの」
「おあああ!!?」
「ああ、レイか」
ガザが喧しい声を上げ、ウルは特に驚きもせずに彼女を迎えた。
レイの目に飛び込んできたのは、ウルとガザだけではない、今日は巡回が休みだったはずの何人もの【黒炎払い】達だ。
ウルとガザ、2人だけだと思っていたが、思っていた以上にウルは黒炎払いに影響を与えていたらしい。
そして、彼らがたむろしてるのは、使われなくなっていた地下牢の一室だ。使用者もいない空き部屋に、机やら何やらがいつの間にか運び込まれている。なぜか酒や小説のような趣向品まである。そしてそれだけではなく、
「……なにこれ、【番兵】の情報?」
「第4層のな」
壁に描かれているのは巨大な黒炎の人形、【番兵】の絵(子供の落書きのような絵だった)とそこに幾つもの情報が書き込まれている。
人形の大きさ
広間における行動の範囲
攻撃の仕方、範囲
身体に【黒炎】がまとわりついている場所と注意点。
戦場となる広間に最初から存在している黒い炎の場所まで
通常の黒炎鬼の性質との差異まで兎に角あらゆる情報を事細かに
ウルが【黒炎払い】に参加しだしてからまださほど日が経っていない。にもかかわらずここまで情報を集めきっているのは驚異的だった。勿論、そこで気まずそうにしているガザ含めた黒炎払い達も情報提供を手伝ったのだろうが。
「…………冗談だと思っていたが、まさか本気なの?」
「冗談?」
「ラース解放という妄言」
ウルは不思議そうな顔になった。
「冗談だとしたらつまらないな」
「…………ガザ」
レイは矛先をガザへとむけた。ガザは気まずそうだ。
「貴方、「新人が馬鹿してるようなら俺が説教して止めてやる」って言ってた」
「あ、いや、ちが、そのつもりだったんだけどよお!!」
「まんまと乗せられてるんじゃない」
「まあそう言ってやるなよ。ガザのやつバカなんだよ」
「まんまと一緒に乗せられてるあんたらも同類よ」
スッパリと切り捨てると、ガザはしおしおと耳を倒して落ち込み、他の連中も気まずそうに頭を掻いた。
やはり最初、ガザに任せたのは間違いだった。彼は昔からこうだ。あまり頭が良くなくて、簡単に誰かに乗せられてしまう。その挙げ句にこんな所まで来てしまったのだから笑えない。(勿論、自分もヒトのことを言えたものではないが)
「無理言っていないで、さっさと見回りの仕事をなさい。今日は貴方たちの担当よ」
「無理じゃ無いぞ」
そこにウルが口を挟む。レイは無表情に彼を睨んだ。
「貴方が威勢良いのは認める。実力があるのも。でも英雄のように傑出しているわけでもなし、私達と同じくらいの熟練者が一人増えたところで【番兵】はどうにも――」
「脚だ」
「え?」
レイの言葉を最後まで聞く前に、ウルは言葉を重ねた。言っている言葉の意味が理解できずに困惑する彼女に、ウルは自分が描いた(不細工な)番兵の絵図の前に立って、その脚を白墨で囲った。
「アイツのいる広場の地面は驚くほどに柔らかかった。【土竜蛇】が潜り込んで潜んでいられるほど、全く踏みしめられていなかった。あんな巨体な人形が居るのに」
「そーそー!そうなんだよ!俺が見つけたんだぜ!!」
自慢げなガザをレイが一睨みすると彼は再び黙った。
ので、レイは再びウルへと視線を向ける。
「……それで?」
「恐らくだが自身の巨体を支えるための重力魔術を発動させている。自分の重さで自壊したり、地面に埋もれたりしないためだ。つまり」
そのまま人形の絵の下半身と上半身を区切るようにして線を引いた。砂の海に埋もれて動けなくなった巨大人形の姿を。
「一瞬でも消去魔術を叩き込めれば、人形は地面に埋もれる」
「…………」
「動けなくなりさえすれば、遠距離から攻撃し放題だ。……ま、そこまで上手くいくかは知らんが、試す価値は無いか?」
レイは少し沈黙した。
ぐうの音も出ない。と言うわけではない、冷静な立場から文句を言おうと思えば幾らだって言える。いや、そもそも彼の意見は決して、思いつかなかったわけじゃ無い。ボルドー含め、自分たちだって、そういった対策を一度も考えなかったわけじゃ無いのだ。
だけど、実行には移さなかった。
10年前の、あまりにも無惨な敗北が、自分たちから踏み出す勇気を奪い去った。
なのに、この少年は躊躇わずにそれを進言する。
物知らずが。と、怒鳴りつけたい。
知らないからそんなことが言えるのだ。と貶したい。
なのに、声が出てこない。ウルの眼の中にある煌煌とした炎が、レイを黙らせた。
例えば此処で、彼の意見に対して重箱の隅を突くように欠点を指摘したとして、彼はそれを反省と糧にするだけだ。そして全ての問題が解消できなかったとしても彼は進むだろう。そう確信させる炎が、レイをあてた。
眩しくて、辛い。
10年前の【黒炎払い】の敗退とアナスタシアの脱落はあまりにも手痛い記憶だった。実家と険悪な関係で捨てられるように此処に来たレイにとって、「ラース解放」などという欺瞞に満ちた大義は心底馬鹿らしくて、やる気になれなかった。
やる気になれなかった結果、周りで多くが死んだ。騙されたとも気付かずに。ただただ献身的にコチラを助けようとしてくれた哀れな聖女が呪われて、喋るのも苦労するような廃人になった。
自分がもう少しでも頑張っていれば違ったのだろうか?
それ以来、そんなどうしようもないような後悔が何をしてても胸を刺す。
今はそんな後悔から目を逸らす毎日だ。アレは無理だ。私達には無理だったのだと言い訳を重ねて、自分を苛む自分の声からなんとか逃れようとした。
なのに、ウルはその後悔を真っ直ぐに突きつけてくる。
あの番兵は倒せると、断言してくる。
”かつて”を恐れて足を止めている自分たちの怠慢を突きつけられるようで――
「大丈夫か?」
「え?」
「いや、随分としんどそうな顔をしていたから」
ウルが彼女を覗き込む。心配そうな表情だ。此方の気持ちも知らないで。
隣のガザは、そんなウルの肩を掴む。彼はレイと同じ、痛みをこらえる顔をしていた。だが、それでもレイへと向き直り、言った。
「な、なあ、レイ」
「何」
「……その、手伝ってくんねえかな……って」
「私、貴方たちを探すように言われたんだけど」
「仕事は行くって!今行く!ただその後でいいからさ!!」
「何故?」
問うと、ガザは「え?」と阿呆な顔をした後うんうんと唸った。恐らくは何も考えずにものを言って、その後言葉を考えているのだ。何時もは苛立つが、今日は気にもならなかった。黙って彼の言葉を待った。
それを隣で聞くウルもまた、一歩下がって彼の言葉を黙って待った。やがてガザは顔を上げる。
「多分、多分だけど。良いと思うんだ」
「良い?」
「俺たちはさ。コイツを手伝った方が良いと思うんだ……………俺たちのために」
言ってることは滅茶苦茶だ。
しかしその日レイは初めて、ガザの言葉に反論することが出来なかった。
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