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普通の女の子(2)




「ティアナ、今から一緒に出掛けるぞ!」


とある休日の朝、使用人用の食堂でゆっくり朝食を取っていると、ダンさんに声をかけられた。


「ダンさんも休みなんですか?」

「ああ。お前には友達がいないからな、同い年くらいの知り合いの子たちを紹介しようと思ったんだ」


余計なお世話ですと、声を大にして言ってやりたいわ。


私の不機嫌そうな表情を見てダンさんの提案を不服に思っていると感じたのか、隣の席で朝食を取っていたレナが手を止めて覗き込んできた。


「お友達作りは、お嫌ですか?」

「嫌ではないけど……」


必要と思っていないだけである。


特に、近頃は休日の度に植物図鑑を片手に森を散策するのが日課になっていただけに、お楽しみを邪魔しようとしてくるダンさんは敵である。許すまじ。でも、いい人だと知っているだけに断るのも難しい。


「ティアナさんは、お友達、欲しくないですか?」

「うーん」


そもそも、同世代の子たちと触れ合ったことがないので何とも言えないが、友達になってくれるだろうか。嫌われたりしないだろうか。大人はみんな優しくて親切にしてくれるけど、子どもだとそうはならないだろう。怖い、と思う。


「私は、会ってみたほうがいいと思いますよ?」

「あれ、レナは反対してくれると思ってたのに」

「そうですか?」

「うん。レナ、私が外に出るの嫌そうにしてるし」


王都にお使いに出かけた時もなんだかんだいい顔はしていなかったし、初めてひとりで領都に出かけた時も、ドーナツ片手に話しに行ったら大層心配されたものだった。



「最近、ティアナさんが外に出るようになったじゃないですか。それから、以前よりも生き生きとしてきたというか、楽しそうだなって思ったんです。」

「確かに、表情が良く動くようになった気がするかもな」


普段よりも心なしかたどたどしく話すレナに、ダンも同意した。


「ティアナ、お前はもっと視野を広げるべきだ。」

「ええ…」

「『ええ』、じゃない。どうせ孤児院でも下の子達の面倒見てばかりで同い年の友達とかいなかっただろう?」


何故ばれてるんだ。

いや、孤児院にたまたま同い年くらいの子がいなかっただけである。決して、私のせいではない。


「だからですね、ティアナさん。もっと外に出てお友達を作ったほうが、ティアナさんにとっては良いのかもしれないと思ったんです。確かに私たちは孤児で働かなくては生きていけませんが、もっと普通の女の子のように同年代の子達と遊んでもいいと思うんです。」

「……いや、レナも大概だが」

「私はティアナさんがいればいいんです」


ダンの突っ込みに、レナは口をとがらせた。


「で、でも、レナ。私もレナがいたらそれで……」

「ティアナさん」

「はい」


何だろう。レナから謎の圧を感じる。


「よし、決まりだな!なに、みんな良いやつだから心配しなくていいさ。レナに頼んでめいいっぱいお洒落してくるんだぞ!」

「頑張ります。」


私が返事をするまでもなく、この後レナによってお洒落をすることが決まった瞬間だった。




_______________________________________________________________________




今更だが、ティアナはお洒落に興味がなければ、自分で買ったこともない。


お洒落してくると言っても、偶にやってもらう三つ編みとか編み込みとかで髪の毛をアレンジする位しかできないと思っていた。



「レナ。このリボンはどこから来たの?」


まさに今、レナがティアナの髪に付けようとしているリボンは、かつてリリアの着せ替えごっこでティアナが身に着けていたような装飾品には質が劣るが、紺色で上品なものだった。


「私がお給料で買ったものです」

「へえ。レナが付けてるの見たことないけど、こういうのが好きなんだ。」

「まあ、好きと言えば好きですけど。私ではなく、ティアナさんに似合うと思って買って来たんです」

「私に?……レナ、お金は自分の為に使ったほうがいいと思うわ」

「私がいいと思っているのですからいいのですよ。それに、ティアナさんはもっと着飾らなければならないのですから」

「着飾る?」

「……いえ。やっぱり何でもないです。」


変なレナ。


ちなみに服のほうは、私の数少ない私服の中で一番可愛い(と思われる)白いワンピースだ。袖にレースの付いたこのワンピースは、この屋敷のメイドから貰ったお下がりだった。お洒落する機会もなく、使用人部屋の小さいクローゼットで鳴りを静めていたのを、レナによって発掘された。


「銀髪に白のワンピースだと、なんだか色が薄くてパッとしない気がするね。お化けみたい。」


私は、色素が薄く存在感のない自分の髪色があまり好きではない。この国ではイザヤ様やリリア様のような黒髪や茶色が当たり前というのもあって、この屋敷に来てから羨ましいと思うようになった。


「そんな訳ないじゃないですか。ティアナさんなら、白でも黒でもなんでも似合いますよ。私が保証します。」

「あはは。レナはいつだって私のことを褒めてるもの。実際どうなのか分かんないよ。」

「お世辞でもなんでもないですよ」


レナは不機嫌そうに頬を膨らませて言った。

                                                       

「さっき言った、お友達をつくればいいというのはあくまで私の意見なので、無理に仲良くならないでもいいのですよ」

「うん……。でも、レナは私のことを想ってそう言ってくれたんでしょ?だったら、ちょっと頑張ってみようかなって今は思っているよ」

「ふふっ、ありがとうございます」


ほら、またそうやって幸せそうに笑うから。


レナの言う通りにするしかないじゃない。





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