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第1章 第6話 やりたいこと

『部活に行こう』



 蜂須賀さんと別れた後も授業をサボり続けたアノンは、放課後になると突然そう言い出した。



(アノンらしくないね。僕基本的に行ってないし)

『だからだろ。お前は部活が嫌いだ。だがやりたいことも少なからずある。そこを俺がやるんだよ』



 この学校は部活動には必ず入部しなければならないという校則がある。だが入りたい部活なんてない僕は、そういう人たちの流れ着く場所、図書部に入部した。



 やることは他の学校の図書委員とたいして変わりはない。図書室で本を読んで、貸し出しの受付をする。そんなこと自分から進んでやる人はいないだろう。だから僕は放課後邪魔の入らない教室で自習をしている。



(でも僕やりたいことなんてないんだけどな……)

『俺が言う以上勘違いなんてことはない。とりあえず行くぞ』



 どっちにしろ僕に拒否権なんてない。僕の意思とは無関係に、足は図書室へと向かう。



「よぉ、忍」



 そして同じ図書部の部員であり、クラスメイトの女子。古見忍(こみしのぶ)古見忍(こみしのぶ)さんへと声をかけた。



「……なに?」



 受付で1人静かに小説を読んでいた古見さんが顔を上げる。見上げる形だと目が半分ほど隠れるほどに前髪が長く、話しかけるなオーラが滲み出ている。



「同じ部活の奴に声をかけちゃ駄目なのか?」

「あなたを部員とは認めていない。他の人も同じ。本に興味ないのに図書室に来ないで」



 古見さんといえば、友だちのいない僕にも噂が流れてくるほどに本の虫だという。実質的帰宅部である図書部で唯一毎日図書室に通っている生粋の読書家だ。



「それに暴力的な人は嫌い。早く帰って」



 確か古見さんは昼休みは図書室で過ごしているようだが、アノンが蜂須賀さんを叩いたのは昼休みの終わりごろ。きっちりその場面を見られていたのだろう。古見さんの態度は冷たい。



「その暴力的な人に喧嘩売ってるんだが?」

「脅迫のつもり? 私は間違ったことは言っていない」



 アノンがカウンターの上を跳び受付に入るが、古見さんの顔は一つも変わらず無表情。



「間違ったことは言っていないな。だが態度は間違ってるんじゃないか?」



 アノンのその発言は脅迫ではないと断言できる。古見さんは誰にでもこういう冷たい態度、というわけではないからだ。



 感じとしては僕に近い。コミュ障で、恥ずかしがり屋。普通の人が相手なら目も見れずにしどろもどろになりながら謝っていただろう。ようするに僕は友だちがいない同じカースト最下層からも下に見られているのだ。



 でもそれに対する文句はない。部活に来ないのは僕が悪いし、確か頭もよかったはず。ただ無意味にカースト最底辺をやっている僕とは格が違う。



「あなたに説教をされる筋合いはない。あなたのような良くないことをする人間に」

「説教なんか垂れるつもりはねぇよ」



 だが僕を格下だと思っているのは、僕の裏人格以外の人だけだ。



「俺たちは悪人だからな」



 古見さんの手に触れたアノンの掌から黒い光が流れていった。



(おいアノン! まさか古見さんにまで……!)

『お前だって思ってんだろ? こいつはいい女だって』



 た……しかに……思っては、いる。地味な感じだけど顔は間違いなくかわいいし、黒ストに包まれた脚は扇情的だし、胸が、大きい。



(でも僕は古見さんをそういう関係になりたいだなんて……! それに蜂須賀さんだって女性として見たことなんかなかった!)

『そうだな。お前は個人には興味はない。でも思ってるだろ? 誰かに認められたいって。それが女だと尚いい。顔がよければ文句なんてない』


(そんな……最低なこと……)

『最低? 生物として容姿のいい異性に惹かれるのは当然のことだろ。そこを否定するのはそれこそ間違ってると思うけどな』



 でも……僕は……。



『まぁ安心しろよ。俺たちはそういうことにそれほど興味があるわけじゃない。それが生物として正しいのかは置いておいてな。だから』

「ぁ……っ、ぁ……っ」



 電流を脳に浴び続け小さく痙攣する古見さんの耳に、アノンは口を近づける。



「仲良く本でも探そうぜ。色々教えてくれよ。お前が好きなもののことを」

「う……ん……」



 そうだ。僕は恋人やそういうことをする相手がほしいんじゃない。



 ただ自分と同じような、誰かに下に見られるような人と慰め合うような、惨めだとしてもいい。痛みを分かち合える友だちがほしかったんだ。

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