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第1章 第5話 立場逆転

「はぁ……っ、はぁ……っ」



 蜂須賀さんの息が荒くなり、顎に当てている指に唾液が垂れてくる。アノンが何らかの指令を彼女の脳に出したせいで。



(な……何したんだよ……)

『別に洗脳とかしたわけじゃない。ただ少し興奮してもらっただけだ。対等になってもらったら、わからせないとな。俺の方が上だって』



 アノンはそう心の中で笑うと、指についた唾液を蜂須賀さんに見せつけた。



「きたねぇな……。これ、どういうつもりだ?」

「う……うるさい……っ」



 人差し指と親指で唾液を引いて見せると、蜂須賀さんは羞恥心に耐えられず顔を背ける。



『指令の重複はできないみたいだな。動くなが効かなくなった。ま、関係ないが』



 心の中でも身体でも笑ってみせたアノンが、蜂須賀さんの股の下に入れた脚を小刻みに動かす。



「ぁ……やめ……っ」

「うるせぇな」



 僕と蜂須賀さんの身体がさらに密着する。荒く吐き出す息の音が耳元で聞こえ、何もできない僕はただ体験したことのないその雰囲気にただドキリとすることしかできない。もっともその心臓すら今では僕の物とは呼べないのだが。



「悔しいな。今まで馬鹿にしてきた奴に気持ちよくされるなんて」

「きもちよく……なんか……っ」


「へぇ。気持ちよくないのにそんなに悶えてるわけか」

「ぁ……あひ……あ……あぁ……っ」



 僕の身体から漏れ出す微量の電流が蜂須賀さんへと流れていく。指令を重複させることができないから何度も何度も指令を出し続けているんだ。



「素直になれよ。全身ピリピリして頭が真っ白になって気持ちよくて仕方ないんだろう?」

「ち、が……っ」


「なら。もっと強くしても大丈夫だな?」

「あぁあぁぁあぁぁっ!?」



 一際大きな電流が流れると共に、蜂須賀さんの身体が大きく跳ねる。そしてそれは一度では終わらない。断続的に続く電流と、跳ね続ける身体。



「ごめっ、ごめんなしゃいっ、もう、これっ、だめなのぉっ」

「違うな。駄目なのは、お前だ」



 僕は何をやってもうまくいかない駄目人間だ。それ故に願望は一際大きいんだと思う。人の上に立ちたいという願望が。



 その胸の奥にしまっていた願望が今、牙を剥く。



「あぁぁぁああぁぁあああぁっ」



 大きな嬌声と共に大きく跳ねた蜂須賀さんの身体。



「ぁ……ぁ……ぁ……」



 そして全身から力が抜けたのか、その身体は床に沈み、脚を開きながら壁にもたれかかる。



「またほしくなったら言えよ。相手してやるから」

「ぁ……ぁ……ぁ……」



 涎をだらだらと垂らしながらピクピクと痙攣する蜂須賀さん。その髪を数度優しく撫でると、僕の身体は屋上を後にする。まるで次の獲物を狙う狩人のように。

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