第1章 第4話 タイマン
「な……なにする気……?」
(そ、そうだよ……何するつもりだよ……!)
僕の進化能力である発電を使い、蜂須賀さんの脳に「動くな」という指令を出したアノンは、彼女を壁際に追い詰めていた。
「安心しろよ。身体で教えてやる」
そしてアノンは左腕を壁に当てて右脚を蜂須賀さんの股の下に通し、いわゆる壁ドンをして彼女の顔を覗き込む。
「へ……変なことしたら許さないんだから……っ」
「変なこと? それってこういうことか?」
アノンが顔を近づけると、蜂須賀さんは動けないまま顔を赤らめて視線を逸らした。
「へぇ。案外かわいいとこあんじゃん」
「……うざ。キモいんだけど」
仕草とは対照的に、きつい言葉を吐く蜂須賀さん。たったそれだけで僕なら委縮してしまうが、アノンは心の中で笑ったような気がした。
「さっきは殴って悪かったな」
そして笑みとは真逆の意味を持つ謝罪を、少し腫れている左頬に触れながら告げた。
「……は? 謝って済む問題じゃないでしょ」
「そうだな。でも謝らないといけない問題だ。暴力を振るったんだからな」
……正直、アノンが何をしたいのか全くわからない。だって僕は謝罪なんてしたいと全く思っていないのだから。
『その通りだよ。俺も俺たちを見下し蔑むこいつに謝る気なんて全くない』
僕の疑問はアノンに筒抜けだ。
『でも必要なんだよ。俺とこいつは同じ土俵に立つ必要があるんだから』
……それなのにこいつの思考を僕が読み取れないのはなんだか不公平な気がする。
「俺は謝ったぞ。お前はどうなんだ?」
「……なに。謝れって言ってるわけ?」
「俺はお前に訊いてるんだよ。ちゃんと答えろ」
「……悪いとは思ってるわよ」
あや……まった……? あのカーストトップの女王、蜂須賀さんが底辺の僕に……?
「嘘つくなよ」
だがそれだけではアノンは逃がさない。顔をさらに近づけながら言う。
「悪いだなんて全く思ってないだろ? 俺とお前では住む世界が違うんだから。俺が下で、お前が上。下々の平民に対する罪悪感なんてあるわけないよなぁ?」
「だから……何が言いたいわけ?」
「わからないのか?」
「っ……!」
左頬に触れていたアノンの指が、蜂須賀さんの顎を持ち上げた。
「な、なにを……!」
「こんな密着した状態なら腹を殴れば抜け出せる。なのになぜそうしないのか。決まってる。俺たちは対等な存在だからだ。俺とお前に上下関係なんかないんだよ」
蜂須賀さんの口が、きゅっと締まる。
「言いたいこと、わかるよな?」
「……ごめんな、さい」
そしてその口がふるふると震えると、ゆっくりと開いた。
「いままで……馬鹿にしてた。これからは気をつける……」
それは謝罪と呼ぶにはあまりにも強気なものだった。だがそれでも謝罪であることに変わりはない。
(アノン……蜂須賀さんの脳に電気信号を流して……)
『いいや。ただ普通に話しただけだ』
そんな……はずがない……。そんなことでいじめがなくなるなら苦労はない。
『ただ普通に話すだけ。それでよかったんだよ。1対1で、正面から話し合う。大事なのは自信と逃がさないことだ。同じ人間同士。相手に味方がいなくて理がこっちにあるなら負けるわけないんだよ』
(でも……そんなことで……)
『お前もわかってたんだろ? じゃなきゃ俺が実行できるわけがない。だがお前はしなかった。できなかった。逃げ続けていた。別に被害者であるお前を責めるわけじゃない。ただ行動しなかったのはお前の責任だ。それだけは理解しとかないとな』
(…………)
なん、なんだよ……こいつは……。本当に、僕なのか……? 僕が止めようと思ったら、いじめはなくなってたのか……?
(僕が……勇気を持って行動していたら……)
『変わっただろうな。少なくとも悪化はしたはずだ。だがお前はしなかった。だから俺が、やってやるよ』
黒い電気がアノンの指から蜂須賀さんの顎に伝わり、脳へと走る。その瞬間、
「あ……あぁ……!?」
蜂須賀さんの頬が、今までにないくらい赤くなった。
(アノン……何して……)
『行動だよ。俺たちが愉しむためのな』
僕と化しているアノンの表情を覗くことは僕には叶わない。それでも確信できる。
アノンはサディスティックな笑みを浮かべていると。
100pt達成しました! ありがとうございますっ! そしていよいよ次回からタイトル回収! R-18にならない程度に書いていきます。また、後々時間が空いた時にR-18版を書こうと思っています。その際はあとがきに書くので、ブクマしてください!
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