第1章 第13話 1人で2人の
翌日。俺は小さな欲求を潰していった。
学校をサボって街に赴き、髪を少し茶色に染め、おしゃれを意識した服を買い、少し高いレストランで食事。
どれもこれも少しはやってみたいと思っていたけれど、羞恥心や自尊心の低さからできなかったことだ。
だがそんなものでは俺は満たされない。何かが足りない。その何かもわからないまま、俺は家族から逃げるように遊んでいく。
「光輝くーん、次歌ってよー」
昼過ぎ。俺は三人組の女子大生をナンパし、カラオケに連れ込んでいた。こんなことを光輝がしたかったかはわからないが、光輝に知ってほしかった。自信や態度一つでこんなことだってできるって。
「俺、あんま音楽聞かねぇからなぁ……」
「えー! じゃあなんでカラオケ行こーなんて言ったのー?」
「そんなのお前とおしゃべりしたかったからに決まってんだろ」
「えー? おしゃべりだけでいいのー?」
三人組の内の1人が身体を寄せてきたので肩を抱いてやる。結局女だろうが年上だろうが陽キャだろうが俺たちと同じだ。誰かに認められたい。そんな承認欲求で世の中は回っている。
光輝の不幸な点は、何もせずとも特別な奴が妹だったこと。そりゃあんな化物とずっと一緒にいたら価値観も歪む。あれと家族なんかじゃなきゃ、俺たちの人生も変わっただろうな。ま、考えても意味のない話だが。
「光輝くんってどこ大の人なの? もしかして社会人?」
「いや、高校生」
「うっそ全然歳上に見えたー! え? 学校は!?」
「サボった」
「悪だねー! でもそんくらいの方がいいよねー! 人生楽しんだもん勝ちっしょ!」
「お前らとも会えたしな」
そんなわけあるか。真面目に頑張るのが一番に決まっている。これで光輝が幸せになるなら価値はあったろうが、現状ではただの暇つぶしと言わざるを得ない。
「高校生ってったらあたしの弟も高校生なんだけどさー、光輝くんと違って全然大人っぽくないの!」
「へぇ」
「なんか今朝も馬鹿なことやるっつってたし。いじめられっ子が反逆してきたからその妹を学校の屋上に呼び出すんだって」
「…………」
「まぁそこまで馬鹿じゃないだろうし犯罪はしないだろうけどさー」
「……そうだな」
「でもいじめられる方も悪いっていうかさ、身内が傷つけられる可能性くらい想像つくんだから変に反抗しなきゃいいのにねー。いじめられるってことはさ、そういう星のもとに生まれたそういう人間なんだしさー」
「……俺もそう思うよ。俺も所詮は僕だ。何をやっても上手くいかないのなんてわかりきっている。……でも僕は俺だから……今の僕たちになら、できることもあるんじゃないかな。なぁ……アノン」
「光輝くん……?」
「僕もお前も、1人ではできないことばかりだ。たとえ特別な力を持ったとしても、何も上手くいかない」
そう。1人では。僕たちは何もできない。
(でも今の僕たちは1人じゃない。だったらできるんじゃないかな。少なくとも、妹を助けることくらいは)
『……確かにそうだな。人より劣る俺たちが、1人で勝とうなんざ夢見すぎてた。でもお前がやりたいって言うのなら、俺は何でもやってやる。これからは、一緒にだ』