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悪役令嬢は妹の幸せを願う  作者: ウメコ
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『おねぇちゃん!おねぇちゃん……!やだよ、だめだよ…!死んじゃ…死んじゃいやだよ……!!』





「……っ!」

ガバリと大きく、布団を跳ね除け身体を起こす。今のは……夢?

……いや、夢だけど、違う。思い出した。今のは前世の記憶というやつだ。私は妹と買い物へ行く途中、車道へと飛び出した子供を助けようとして死んだんだ。身体へと走る衝撃、不思議と痛みはなかった。真っ赤に染まってゆく世界。泣きじゃくる子供が親に抱きしめられているのが見えた。無事だったみたいで、良かった……。

不意に力強く手を握られる感触を感じ、視線を向ければ、涙でぐちゃぐちゃになった妹の顔。何かを言っているようだけど、よく聞こえなくて。その日はとても暖かい日だったけれど、指先からどんどん冷えていき、寒くて寒くて仕方がなかった。妹から伝わるはずの手の温もりも分からないまま、私は――――。




蘇る記憶に頭がかち割れそうだ。

焼けた鉛のように熱く、重い身体を引き摺り、ベッドから出る。そのまま履き物も履かず、壁に付けられた大きな鏡の前へと立つ。

白銀のゆるくふんわりとした長髪。いつもであれば強気に構える黄色と紫のグラデーションの瞳。今は情けなく眉を下げ、弱々しく鏡に写っている。確かめるように鏡を左手で触れると、甲の薬指の付け根へと浮かぶ痣が目に入った。あぁ、やはり。間違いない。私はこの人物を知っている。いや、正確にはこの人物は自分が知っているよりも少し幼いが、間違いない。今では見慣れてしまった自分のこの顔と痣を、思い出した。



"恋の宝石を集めて"

妹が大好きだったゲーム。それは所謂乙女ゲームというものらしい。私はゲームをあまり嗜む方ではなく、妹からの話しで概要とキャラクターを知るくらいの知識しか持っていない。

確か魔法の使える世界で、でも、魔力は全ての人間が持っている訳ではなくその殆どが貴族で、稀に平民もいる。生まれてすぐに魔力のある者は左手の甲の薬指の付け根へ属性を象徴する痣が浮かび上がるのだ。痣は薔薇の形をしており、魔力の属性に習って色が付く。属性と色はこうだ。火(赤)・水(青)・風(緑)・土(橙)そして光(黄色)。光はその中でも持つものは少なく、貴重で高貴な魔力だとされている。

ヒロインの女の子はそんな光の魔力を宿していた。

十六歳になる年。魔力を保持する者は魔法学園へと入園することが国で決まっている。ヒロインも魔力を宿すので例外なく入園する。平民でありながら魔力を宿し、そしてそれが光であることでヒロインは嫌がらせなどを受けてしまう。中には犯罪紛いのものもあったが、そこで挫けないヒロインに王太子を始めとする何人かの攻略対象は惹かれていき、紆余曲折ありながらも結ばれ幸せになるという、ラブストーリー。

妹は王太子が一番の推しらしく、王太子ルートをクリア出来たときはとても喜んでいた。

そして喜んでいたと同時に、こんな事も言っていた。悪役令嬢が最低すぎる。

そう、こういうお話に必ずと言っていい程の付き物、悪役令嬢。公爵家の令嬢であり、王太子の婚約者。婚約者がいるのにも関わらず、顔が良く、身分の高い者は全て自分のモノだと思っているような我が儘で自分勝手な傲慢者。彼女には兄と妹がおり、自分から兄を取る妹を良く思わず虐め、自分より身分の低い侍女達を奴隷のように扱う。自分が一番可愛いのだから愛されるのが当たり前だと思っている。そんな彼女は勿論、平民であるヒロインを嫌い、愛されることを妬む。そして陰で犯罪紛いの嫌がらせを働く主犯が彼女であった。それがゲームの最終イベントである学園舞踏会で王太子達に露見し、激昂した彼女はヒロインをナイフで刺し殺そうとする。だが王太子により未然に防がれ、その場で婚約破棄を言い渡される。その後はルートによって変わるらしく、家族共々国外追放か、一人牢屋へと入れられ、最期は一人寂しく死んでいく。


そんな悪役令嬢の名はキリティア・クライアンズ。






今の、私だ。



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