第九話 急な知らせにより、ヘンゾー出動
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随分とあっさり解放されたので、感動の再会でもなんでもないが……これでとりあえずは安心だ。
目尻にうっすらと涙痕が残ったシュミネは、興奮気味に言った。
「もう! ヘンゾーさん、心配したんですから!」
「わ、悪かったよ。ちょっとおふざけがすぎちゃった」
誰かが僕のために怒ってくれるなんて久し振りな気がする。
反省しないといけない立場でありながら、心配してくれることが嬉しくて、シュミネの頭を撫で撫でしてしまう。
「……誤魔化そうとしても駄目にございます」
口ではそう言っているが、蕩けきった表情が正直だ。やっぱりシュミネは可愛い。
この癒しタイムもいいが、吉報を知らせなければ。
「撫で撫でをしてもらって気分が高揚しているシュミネに吉報! ツンデちゃんが僕を使い魔として雇ってくれるって(本当のところは、「検討する」としか返答をもらっていないが……まあ、雇ってもらったも同然だろう)。どう?」
吉報という表現は間違いなかったようで、シュミネは飛び跳ねて喜んでくれた。
「うわあ、嬉しい、嬉しいです!」
今のテンションなら粗相を言っても許してもらえるだろう。
「それと………ツンデちゃんに異世界人であることも、男であることも明かしたよ」
突然のカミングアウトにシュミネの動きが止まった。銅像のようだ。
本気で怒らせてしまったかもしれない、すぐに弁明せねば。
「いや、正体は明かしたけれど、ツンデちゃんは他言しないよ?」
「当然、レ・ツンデ女王様はそのようなお方ではございませんが、正体を明かす必要性はあったのでしょうか?」
それを言われると弱い。あったか、なかったかで言えば、なかったと答えるしかない。
「なかったよ。だけど、プライドが高そうなツンデちゃんが申し訳なさそうにして助けに来てくれた。そんな自分に正直になったツンデちゃんに対して、偽りたくなかったし、お礼をせずにもいられなかった。まあ、今の僕にできることは、正体を明かすことしかないからね」
シュミネは、訝しそうにこちらを見たが、すぐに表情が明るくなった。
「ヘンゾーさんが考えて決めたこと、私は尊重させていただきます」
よかった。一時は吉報が悲報に変わりそうだったけれど、なんとかいい知らせのままで終わったかな。
いやしかし、肝心のチーフとの挨拶がまだだ。
「そういえば、チーフってあの部屋にいなかったと思うけれど、どこにいるの? やっぱり挨拶しておくべきだよね」
「ええ、チーフへの挨拶は不可欠にございます。うーん、この時間帯はあの部屋にいらっしゃることが多いのですが………仕方ありません、捜しましょうか」
「えっ! この広いお城の中を虱潰しに?」
「はい」
「駄目駄目、そんなの疲れちゃうよ」
「では、私一人で」
「もっと駄目、そんなことさせるくらいなら僕も行くけれど」
「お優しいですね。それでは行きましょう」
やむを得なく捜索を開始しようとした直後、城内に不気味なサイレンが響き渡った。
「な、なんだ」
シュミネは、動揺した僕の顔先で人差し指を立て「お静かに」と言った。シュミネの表情は真剣そのものだ。
『緊急事態発生、緊急事態発生。国外から敵が攻めてきた。外出中の者はただちに屋内に避難せよ。繰り返す…………』
アナウンスが流れ、僕は青ざめた。
「シュミネ、やばいよ! 僕が狙われる! もしかしてツンデちゃんが言っちゃったのかな」
「それはあり得ないかと。ヘンゾーさん自身もおっしゃっていましたがレ・ツンデ女王様は秘密を他言するような方ではありません。それに、アナウンスでは『屋内に避難せよ』という文言が出ました。その屋内にヘンゾーさんがいるというのに、わざわざそこに出向けというのは矛盾しています」
シュミネの言う通りだ、僕を指しているのだとしたら矛盾している。であれば、本当に国外からの敵が?
僕は、廊下の窓から身を乗り出すようにしてココウマデ平原を見た。
ここからでも馬に乗った兵士たちが、対面に待つ勢力に向かっているのがわかる。
「シュミネ、これって」
隣に並んだシュミネが硝子を撫でるようになぞった。
「敵国との戦争にございます」
戦争………信じ難いが、厳然として僕の目の前で行われようとしている。
僕は、動揺のあまり、無神経な発言をぽつりと漏らしてしまう。
「シュミネはこれを見ても、外のことが知りたいって………思うの?」
「戦争は嫌いにございます、好きになれるはずもありません。外の国は、我が国が地理的に海に一番近いということで、急襲を仕かけてくることがあります。その度に我が国は防衛のための戦争を強いられていますが、こちらから無駄な戦いは起こしません。そして、戦争は、文化や学術とは全くの別物だと思っておりますので…………あくまで私は知りたいです」
シュミネの言う通りだな、戦争とその国で紡がれてきた伝統は別物。僕の失言だ。
「ごめん、シュミネを貶めるつもりで言ったわけじゃないんだ」
「承知しております」
真っ直ぐな瞳から、願いを叶えたいという強い意思がひしひしと伝わってきた。
こちらに戦争をする意思がないのであれば、僕にもなにかできることがあるかもしれない。
「話し合いで妥協点を探るという手段がある。僕、行ってくるよ」
「えっ!」
下り階段を探し、僕はそちらへと走り出した。
後ろから引き止める言葉が聞こえてきたが、今は聞き入れるわけにはいかない。これは、互いのためなんだ。誰もやらないなら僕がやる!
Twitter:@shion_mizumoto
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