第八話 唐突の萌え~と唐突の自由
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この空間での唯一の灯りは、背後の壁面に引っかけられたランタンのみ。他に誰もいないのか、なんの音も聞こえてこない。
連行されてからさほど経過していないが、どれだけ待ってもシュミネはここに来れないだろう。であれば、ここからは自力で脱出するしかないだろうが、眼前の堅牢な鉄格子を見ると諦めたくなってしまう。
もしかして……一生このまま?
「嫌だっ! 出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して」
「うるさいわっ!」
あっ!! どこからか誰かの声が聞こえた! 声の主に交渉すれば、脱獄できるかもしれない。これは千載一遇のチャンスにして、最初で最後のチャンスだ。よーし、駄々を続けてやる!
「出して出して出して出して出して、おーい、出して出して出して出して」
駄々の次は駄々、その後も駄々、生まれて初めての駄々祭り。
『これなら!』と希望を持ち続けていたが、必死の駄々も虚しく、空間は静寂に包まれてしまった。
今度こそ終わったと全てを諦めかける……が、再びなにかが聞こえてきた。今度は声ではなく、コツコツというヒールで地面を蹴る音。誰が近付いてきている?
足音は目の前で止まり、来訪者を見た僕もまた動きを止めてしまった。
突然の来訪者は、まさかのツンデちゃんだった。
「ツ、ツンデちゃん! どうしてここに?」
僕の問いかけに一瞬目を伏せたが、すぐにこちらに向き直った。
「その呼び方をやめるのじゃ。解放してやる気が失せるわ」
「解放? それじゃあ、僕は!」
ツンデちゃんは頷いて、
「そも、わらわに、うぬを捕らえる権限はない。だから……解放してやる」
と吐き捨てるように言った。
この子、口調は荒々しいけれど、拗ねるような瞳と朱に染まった頬、駄々っ子のように後ろで手を組んでいるところを見るに、少し反省しているようだ。うわあ……めちゃくちゃ可愛いぞ。
ツンデちゃんが手を前に出す。
その手には鉄製のリングが握られていて、リングに複数の鍵が括り付けられていた。
まさかこの子……ギリギリまで鍵を出すのが恥ずかしかったのか? 照れ臭かったのか? 駄目だ、可愛すぎて昇天してしまいそうだ。
「ありがとう、ツンデちゃん。ところで……ついでにここで働かせてもらえたりしたら、凄く嬉しいんだけれど」
「……図々しいやつめ………まあ……検討してやる」
複数の鍵の中から、一発でこの牢の鍵を見つけ出し、開錠してくれた。
このまま単に解放してもらうだけでは面白くないな。感謝の証としてなにかをあげたいが、一文無しなので物は無理だ。せめて正体くらいは明かしてもいいだろう。
僕は、牢を出て正面にある壁を見て、あることを思いついた。
「ツンデちゃん!」
壁にドンと勢いよく手をついた。僕と壁の間には目を丸くしたツンデちゃんが。
「な………なにを!」
ツンデちゃんの耳が真っ赤になっている。初めて壁ドンをしてみたけれど、効果はあったみたいだ。
「ツンデちゃん、君には言っておくよ。僕は異世界人なんだ、異世界からやってきたんだ。名前は三留辺蔵、ヘンゾーって呼んでよ」
「……そんなこと信じるものか!」
「信じなくてもいいけれど、助けてくれたお礼としてね。あ、それと、僕は男だから」
「お、男!」
僕が首肯すると、ツンデちゃんは腰を抜かしてその場に崩れ落ちた。
「ツンデちゃん! 大丈夫?」
呼びかけを無視したツンデちゃんは、階段の方を指さした。
「………行け。この先を上がるのじゃ。シュミネが待っておる」
「そうは言っても…………」
「わらわはもう少しここにいる」
「迷子にならない?」
「来た道を戻るだけの話じゃ。さっさと行け」
まあ、本人がそう言うのなら大丈夫か。一緒に出る必要もないしね。
僕は手を貸し、ツンデちゃんを起こした後、出入口へと急いだ。
Twitter:@shion_mizumoto
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