第七話 女王様は、素直じゃない→地下牢確定
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楽しみにしていた僕を恨みたくなるほど、緊張に緊張を重ねた緊張を味わっていた。
モフモフのケモ耳が揺れる。
「では、お願いします」
僕は、扉から一度距離を取った。
「やっぱり僕、無理かも………」
シュミネは、胸の前で握りこぶしを二つ作り、
「大丈夫にございます! チーフは怖い方ですが、使い魔の数が増えることは本望のはず。粗相さえなければ必ず雇ってくれます!」
と励ましてくれる。
城の中は目を疑うほど豪華絢爛。この状態を保持するために、使い魔さんが日々頑張っていると思うと本当に凄い。
それに、すっごい広い。使っていない部屋ばかりなのでは、と思うくらい部屋が多い。これを見ると数が必要なのも頷ける。
僕は、気合いを入れるために、頬をパチンと叩いた。
「よっし! シュミネ、行くよ?」
「はいっ! ヘンゾーさんのタイミングに合わせます!」
よーし、なるようになれっ!
頬の次に、扉を叩いた。
すると、扉の向こう側から声が聞こえてくる。
「入れ」
入室許可が下り、僕は勢いよく扉を開いた。
「なんじゃ貴様、新入りか?」
僕に上から物を言ったのは、色とりどりの花が目立つ綺麗なドレス姿の『幼い女の子』だった。その周りを十数人の女性が整列している(シュミネと僕と同じ格好をしているから、おそらく使い魔さんだと思う)。
この子がチーフ? チーフというよりは、女王様みたいだが……それにしても、可愛いなあ!
チーフと思わしき女の子を凝視していると、僕の袖口を掴んでくるシュミネ。酷く慌てている様子だ。
シュミネは、横目で幼い女の子に気を配りつつも、俺に耳を貸すように手招きしてきて、
「じ……女王様にございます」
と耳元で囁いた。
ほ、本当に女王様だったの!? じゃ、じゃあ、チーフは?
「え、チーフがいるんじゃなかったの? それに、あの小さい女の子が女王様?」
「ヘンゾーさんお声が大きいです………」
女王様と思わしき女の子はこちらを睨んだ。
「聞こえておらんとでも思ってか!」
悪役のような台詞だが、容姿のせいで全く怖くない。
ただ、まずい状況になってしまったようで、シュミネは僕を手で制して前に出た。
「レ・ツンデ女王様、申し訳ございません!」
レ・ツンデ? この女の子の名前か。
シュミネが必死に謝罪をしてくれるが、僕はいまいち緊迫感に欠けていた。小さい子だし、頭を撫でてあげるだけで落ち着くだろう。
僕は、シュミネの了解を得ることなく、女王様にゆっくりと近寄ると、取り巻きの使い魔さんたちの方から、この世の終わりような暗黒の空気が伝わってきた。
だが、それでも僕は動じなかった。肩書きは凄いかもしれないけれど、僕にはその凄さが伝わってこない。所詮は子供だ、テンプレ通りに対応すればいい話なのだ。
僕は、そっと女王様の頭を撫でた。
撫でる! 撫でる! 撫でる! さらに撫でる!
艶やかな金色の髪は、撫でるごとにその輝きを増しているようだ。そして、なんといってもツインテール! 僕のツボを完璧に押さえている。
後は、言葉でもあやしてあげるだけだ。
「いい子だからねー、落ち着こうねえ」
頭を撫でられたのが恥ずかしかったのか、女王様は頬を赤らめた。
かっ、可愛いぃいぃぃっ!
このまま撫で撫でし続けられるのなら、もう餓死してもいい。
「照れなくてもいいんだよ? あー、可愛いねえ」
俯き、体を小刻みに震わせる女王様。
「た………」
「た? どうかしたの? 言ってごらん」
「このたわけ!」
「ひえっ!」
広すぎる城内に女王様の声が響き渡った。
「こんな無礼者は初めてじゃ!」
「ええっ!??!?? 嬉しくなかったの?」
「馬鹿者! そんなことあるか! 口の利き方を弁えんか!」
なにもそんなに怒らなくてもいいのに! で、でも、僕の経験上、このパターンは『照れを隠したいだけ』のはずだから、むしろ凄く微笑ましい(いや、実際にはなんの経験もないんだけれど)。
ともかく、女王様に必要なのは素直さだ。見たところ僕よりも年下だから、ここは人生の先輩として教えてあげよう。
「わかったわかった、わかったから素直になりなよ。僕も意地を張ったり、気持ちを伝えるのが恥ずかしくなったりすることはある。だけど、素直になりなよ。伝えられるのはその時しかないって思わないと、後悔するかもしれないよ?」
僕のアドバイスが染みたのか、女王様は項垂れるようにまた俯いた。
その様子を見ていた使い魔さんたちはざわついていた。僕の身を案じてくれているのだろうが、それは大袈裟だ。世の中には言わなければいけないことがあるし、それで問題が解消されることもある。
なにはともあれ僕のことを信用してくれたに違いない。よーし、次のステップは『打ち解ける』だな!
「レ・ツンデ女王様だよね。うーん……じゃあ、ツンデちゃんって呼んでもいいかな? あ、そうだ、ツンデちゃん。僕、シュミネの紹介でここに勤めたいんだけれど、いいかな?」
顔を上げたツンデちゃんの顔は、さっきよりも真っ赤だ、怒りで!
そのまま握り拳を作り、僕をポカポカと殴りつけながら、
「いいわけあるか! このたわけを地下牢に放り込め!」
と怒鳴ってくる。
「ちょ、ちょっと! 嘘でしょ? 冗談でしょ?」
「冗談なものか! 無礼者め………。おい、さっさと連行するのじゃ!」
使い魔さんに命令が下り、すぐさま僕は連行されてしまう……って、嘘だろ?
涙目のシュミネが僕を呼んだ。
「ヘンゾーさん!」
僕は、シュミネに向けて目一杯手を伸ばしたが、想いも虚しく廊下に連れられ、部屋の扉が閉まった。
まだだ、まだ抵抗できる。
「僕は、地下牢なんかに入りたくない!」
使い魔さんたちの腕の中で足掻くが、テープで口を塞がれてしまう。
僕の左隣の使い魔さんが口を開いた。
「何故あんなことを? 考えられません。それにその口調………もしや殿方?」
ここで身元がバレてしまうようなことがあっては、生命の危機に関わってしまう。
言葉の代わりにかぶりを振って返答した。
その使い魔さんは訝しむように僕を見たが、「まあ『僕』と言う女性がいないわけではありませんね」と呟いた。どうやらギリギリセーフ……じゃないよ! 地下牢にぶち込まれること自体は解決してない!
めちゃくちゃアウトじゃん!
Twitter:@shion_mizumoto
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