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第六話 願いに尽くすために、○○さんになります!

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「昨日も申し上げましたが、私はお城に仕えております。生まれてからずっとにございます。ヘンゾーさんは私のことを温厚と言ってくださいましたが、私は温厚なんかではございません。好奇心旺盛で、我がままで……もっと、もっともっと………外の世界に触れたいと思っております。外の世界にも、地域独自暮らしがあって、文化があって……囚われ続けてきたからこそ自由に学びたいと、そう昔から思い続けております。しかしながら、お城に仕えるだけの身分の私が、この場所よりも外のことを知ることは禁じられております。だから、ペルお姉様のお力を借りて、外の世界の方に『独自の文化』を教えてもらいたくて……それで…………」


「もういい」


 シュミネは目を開け、言葉の真意を問うようにこちらを見た。


「シュミネの想いは、十二分にわかったよ。僕も……僕も同じなんだ」


「えっ…………」


「同じといっても、シュミネに比べたらもっと小さな規模の話だけれどさ、僕も囚われていたんだよ、ずっと。僕の世界では異国のことを学べる、流石に異世界のことまでは無理だけれど。でもさ、僕はずっと同じ場所にいるんだ、同じ周囲と、同じ街並みと、同じ気持ち。変わらないんだ、なにもかも。世界は広いというのに、僕の世界は閉鎖的だったんだよ。だからこそ、僕は新たな世界を探しに行く旅ができる……………を目指したんだ」


 ……あ、あれ? 話しているうちに、忘れていたことを少しずつ思い出してきていたのに、肝心ななにかを、僕のアイデンティティを、綺麗さっぱり忘れてしまっている。


「記憶が曖昧だとはシュミネから聞いていたけれど、まだ思い出せないのね」


 ペルさんは、下から目線で僕を心配してくれた。


 言い淀んだなにかを思い出すことができれば、それがきっかけとなって、全てがわかる気がする。しかしながら、その正体が一切浮かんでこない。


「今はわからないけれど、絶対にわかるようになると思う、僕の言えなかったことが」


「やはり、今すぐにでも元の世界へと戻っていただくべきでしょうか。私の都合に巻き込んで………勝手ばかり申し上げて…………」


「ううん、そんなことはいいよ。僕はもうシュミネの願いに尽くすつもりだよ」


「ヘンゾーさん…………」


 シュミネは、安堵の表情を見せた。


 ただ、一つ不安なことがある。詳細には思い出せないけれど、こんな僕にも大切な人がいた気がする。


「ペルさん、僕は元の世界から消えたことで、家族や友達に心配や迷惑をかけていると思うんですが……それだけが気がかりで」


「そのことなら全く気にする必要はないわ」


 おお、それは心強い。ところでその根拠は?


「理由を伺ってもいいですか」


「ヘンゾーくんを想っている人なんていないじゃない」


「いやいやいやいやっ! ペルさん酷いですよ!」


 予想通りの反応だったのか、ペルさんはくすくすと笑った。


「冗談冗談。本当の理由は、『あちらとこちらでは時間の流れが違うから』ということよ。こちらの方が圧倒的に早く、あちらの方が圧倒的に遅いわけ。流石にわかるわよね?」


 戸惑いながらも、僕は首肯した。


 なるほど、それが本当であれば、ここに少しくらい滞在しても問題はないだろう。


 逆さのペルさんは腕組みしながら、

「いやしかし、ヘンゾーくんがなにも覚えていないんじゃねえ……参ったなこれは」

 と呟く。


 力になりたいと思っても、その知識がすっぽりと抜け落ちてしまっている。この状態では助力のしようがない。


 暗礁に乗り上げたかもしれないと、肩を落としていた最中、急になにかを思いついたのか、シュミネはパチンと手を叩いた。


「ヘンゾーさんが元の世界のことを思い出すまでの間、お城で仕えるというのはいかがでしょうか?」


 な、な、な、なんですと?!!?! で、でも……。


「流石に遠慮するよ。僕はここの人にとって異世界人なわけだし、シュミネがやっている作法も仕事も知らない素人だからね。必ず足手まといになる」


「大丈夫にございます、ベテランの私が手取り足取りお伝えします。それに、使い魔の数は常に不足していますので、異世界人ということを隠せば雇っていただけます」


 そんな簡単にいくか……? 第一、今のこの容姿では、確実に不審がられるだろう。


「隠すと言っても、僕の外見は、シュミネやペルさんから見て、明らかに違和感があると思うんだけれど」


 だが、これは僕の無駄な心配だったようで、

「確かに今のままでは異質ですし、城からも不審者と見なされ、拘束されてしまうでしょう。ただ、その問題も『女装』をすれば解消されます!」

 とシュミネは胸を張って言った。


 変装という手は確かにアリなのかもしれないけれど……女装だけで完璧に誤魔化せるのか、甚だ疑問ではある。


 僕が唸っていると、ペルさんが脚をつんつんと突いてきた。


「シュミネの女性力を侮っちゃいけないわよ。本気を出せば、同性だって簡単に欺けるはず。後はコミュニケーションだけれど、それも問題なしね」


「コミュニケーション………うっかりしていましたが、どうして異世界人の僕がシュミネとペルさんと普通に話すことができているんでしょうか?」


「すこーし考えればわからないかしら?」


「………………魔法ですか?」


 首肯。


「あたしとシュミネは、異世界人ともコミュニケーションがとれるように、魔法をかけているわ。その魔法をヘンゾーくんにもかければ完璧」


 魔法って便利だなあ………。まあ、条件が揃っているのであれば、無理に断ることもないか。それに、思い出すまでの間、異世界について知ることができるなんて、僕には貴重すぎる経験だ。


「僕、使い魔さんをやります!」


「ありがとうございます!」


 シュミネの満面の笑みが見れるのなら、僕はなんだってできてしまいそうだ。


 ワクワクしてきたぞ。

Twitter:@shion_mizumoto


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