第五話 種も仕掛けもありません。あるのは魔法だけです
●少しでも面白いなと思われた方は、ブックマーク登録と評価をしていただけますと幸いです‼︎
「ごめんごめん。驚かせちゃったね、シュミネ。それに、ヘンゾーくんも」
「驚きすぎて……ちょっと気が動転しそうです。なんで逆さで………宙に…………」
「いやいや、これは結構自然なことなのよ? まあ……君の常識では、奇妙で、奇怪で、驚くべきことなのかもしれないけれど」
この異様な光景が自然だなんて言う人は、間違いなく変人だぞ。
「見知らぬ人に対して失礼なのは重々承知していますが、知的好奇心が抑えられません! 一体どういう原理なんですか? まさか天井から糸で吊るしているとかではないですよね?」
「別に話してもいいけれど、意味がないと思うわ」
「意味がない?」
「原理も、原則も、君じゃ到底理解できないからね。シュミネだって理解できないわ。まあこれは、未来永劫あたししか理解できないでしょうね。.……強いて一つヒントを出すとすれば『禁忌を犯したが故、今のあたしがいる』ってくらいかしら。どう? わからないでしょう」
ぐぬぬ……。悔しいがさっぱりわからない。そも、勉強ができる方ではないが………仮に勉強が得意であったとしても、抽象的すぎてわかりようがないはずだ。こんなものなぞなぞだぞ。
「いやはや、全くわかりません……シュミネはどう?」
黙って聞いていたシュミネは、黙ったままかぶりを振った。
逆さのお姉さんはというと、逆さまのまま自虐気味に笑った。
「あたしにとって自然なこととはいえ、服選びとかは大変なのよね。ほら、スカート履いたら見えちゃうし、上も必ずインしないといけないし………。それはいいとして、ヘンゾーくんはゲートについて知りたいのね?」
服選びの話も気にはなるが、確かに今はゲートの方が知りたい。ただ、まだ言っていないことがあったな。
「もちろん知りたいです。だけど、本題に移る前に自己紹介が済んでいません……………って、よくよく考えたらなんで僕の名前を知っているんですかっ!」
「いやいや、それはシュミネから聞いた以外ないでしょ。三留辺蔵くんよね、随分古風というか……変わった名前ね」
直球すぎるだろ………僕だってこの名前を気に入って名乗っているわけじゃない。
「それで、お姉さんの名前は?」
訊くと、逆さのお姉さんは口元に手を当てた。
「完全無欠、完璧、それらの言葉がお似合いなお姉さんの名前は『ペル・フェクト』よ。シュミネは、かしこまった呼び方をしているけれど、ペルさんとかでもいいのよ?」
「自分で完璧って言うんですか! はあ………では、ペルさんとお呼びします」
ペルさんは腕組みをして、こくこくと頷いた。
ご納得していただけたようで、なによりです。
「よし、お互いの名前を把握したことだし、今度こそゲートの話ね。あれは、あたしの『魔法』で出現させたのよ」
魔法って……そりゃあ、使えたら凄いことだけれど。
「魔法なんて存在するんですか? 少なくとも、僕の世界では『ありえない』ことなので……信じられないです」
ペルさんは、無知な僕を見て、揶揄うような微笑みを浮かべた。
「ヘンゾーくん、中々面白いことを言うわね。あたしのこの姿だって、ヘンゾーくんにとっては『ありえない』と思っていることを、証明していることに他ならないでしょう? ヘンゾーくんは、現在進行形でその『ありえない』と思っていることを目の当たりにしながら、それでも認めないのかしら。それと同じで、ヘンゾーくんが『ありえない』と思っても、魔法だってなんだって、この世界には存在するのよ」
それは………ぐうの音も出ない。
「返す言葉がありません……信じます、魔法を」
そう言うと、ペルさんは指を鳴らした。
「よろしい! では、続けるわ。あたしが魔法でゲートを出現させたら、ヘンゾーくんがゲートの反対側からこちらに入り込んできたわけ。偶然ヘンゾーくんが現れたけれど、あたしたちとしては、ヘンゾーくんの世界の人であれば、他の誰でも良かったのよ」
ペルさんの淡々とした説明の後、シュミネは口を開いた。
「ヘンゾーさんには申し訳ないと思っております。ただ、ご協力いただければ、私にできる範囲にはなりますが『なんでも』やります。もちろん拒否していただくことも承知の上なので、その場合は遠慮なくおっしゃってください」
幾ら可愛い子のお願いといっても、そう易々と引き受けたりはしない(『なんでも』というワードに気持ちが揺らぎそうになるが)。そも、肝心なことを訊いていない。これを訊かずして判断するのはおかしな話だ。
「シュミネ、どうやって僕がここに辿り着いたかはわかったよ。………魔法だけじゃなくて、君のことも、ペルさんのことも、全部信じるよ。でも……一ついいかな。僕は『温厚なシュミネがどうして人を頼ってまで、異世界の人間を招くようなことをしたのか』を知りたい。僕の返事はそれによって左右されるよ」
僕の問いは、シュミネが隠そうとしていたことなのかもしれない。隠しきれるはずがないのに、それでも隠そうとしていたのかもしれない。
少しの沈黙が生まれた後、シュミネは胸に手を当て、目を閉じて、まるで神にでも祈るかのような清々しい表情で語り始めた。
Twitter:@shion_mizumoto
●少しでも面白いなと思われた方は、ブックマーク登録と評価をしていただけますと幸いです‼︎