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第五話 種も仕掛けもありません。あるのは魔法だけです

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「ごめんごめん。驚かせちゃったね、シュミネ。それに、ヘンゾーくんも」


「驚きすぎて……ちょっと気が動転しそうです。なんで逆さで………宙に…………」


「いやいや、これは結構自然なことなのよ? まあ……君の常識では、奇妙で、奇怪で、驚くべきことなのかもしれないけれど」


 この異様な光景が自然だなんて言う人は、間違いなく変人だぞ。


「見知らぬ人に対して失礼なのは重々承知していますが、知的好奇心が抑えられません! 一体どういう原理なんですか? まさか天井から糸で吊るしているとかではないですよね?」


「別に話してもいいけれど、意味がないと思うわ」


「意味がない?」


「原理も、原則も、君じゃ到底理解できないからね。シュミネだって理解できないわ。まあこれは、未来永劫あたししか理解できないでしょうね。.……強いて一つヒントを出すとすれば『禁忌を犯したが故、今のあたしがいる』ってくらいかしら。どう? わからないでしょう」


 ぐぬぬ……。悔しいがさっぱりわからない。そも、勉強ができる方ではないが………仮に勉強が得意であったとしても、抽象的すぎてわかりようがないはずだ。こんなものなぞなぞだぞ。


「いやはや、全くわかりません……シュミネはどう?」


 黙って聞いていたシュミネは、黙ったままかぶりを振った。


 逆さのお姉さんはというと、逆さまのまま自虐気味に笑った。


「あたしにとって自然なこととはいえ、服選びとかは大変なのよね。ほら、スカート履いたら見えちゃうし、上も必ずインしないといけないし………。それはいいとして、ヘンゾーくんはゲートについて知りたいのね?」


 服選びの話も気にはなるが、確かに今はゲートの方が知りたい。ただ、まだ言っていないことがあったな。


「もちろん知りたいです。だけど、本題に移る前に自己紹介が済んでいません……………って、よくよく考えたらなんで僕の名前を知っているんですかっ!」


「いやいや、それはシュミネから聞いた以外ないでしょ。三留辺蔵くんよね、随分古風というか……変わった名前ね」


 直球すぎるだろ………僕だってこの名前を気に入って名乗っているわけじゃない。


「それで、お姉さんの名前は?」


 訊くと、逆さのお姉さんは口元に手を当てた。


「完全無欠、完璧、それらの言葉がお似合いなお姉さんの名前は『ペル・フェクト』よ。シュミネは、かしこまった呼び方をしているけれど、ペルさんとかでもいいのよ?」

 

「自分で完璧って言うんですか! はあ………では、ペルさんとお呼びします」


 ペルさんは腕組みをして、こくこくと頷いた。


 ご納得していただけたようで、なによりです。


「よし、お互いの名前を把握したことだし、今度こそゲートの話ね。あれは、あたしの『魔法』で出現させたのよ」


 魔法って……そりゃあ、使えたら凄いことだけれど。


「魔法なんて存在するんですか? 少なくとも、僕の世界では『ありえない』ことなので……信じられないです」


 ペルさんは、無知な僕を見て、揶揄うような微笑みを浮かべた。


「ヘンゾーくん、中々面白いことを言うわね。あたしのこの姿だって、ヘンゾーくんにとっては『ありえない』と思っていることを、証明していることに他ならないでしょう? ヘンゾーくんは、現在進行形でその『ありえない』と思っていることを目の当たりにしながら、それでも認めないのかしら。それと同じで、ヘンゾーくんが『ありえない』と思っても、魔法だってなんだって、この世界には存在するのよ」


 それは………ぐうの音も出ない。


「返す言葉がありません……信じます、魔法を」


 そう言うと、ペルさんは指を鳴らした。


「よろしい! では、続けるわ。あたしが魔法でゲートを出現させたら、ヘンゾーくんがゲートの反対側からこちらに入り込んできたわけ。偶然ヘンゾーくんが現れたけれど、あたしたちとしては、ヘンゾーくんの世界の人であれば、他の誰でも良かったのよ」


 ペルさんの淡々とした説明の後、シュミネは口を開いた。


「ヘンゾーさんには申し訳ないと思っております。ただ、ご協力いただければ、私にできる範囲にはなりますが『なんでも』やります。もちろん拒否していただくことも承知の上なので、その場合は遠慮なくおっしゃってください」


 幾ら可愛い子のお願いといっても、そう易々と引き受けたりはしない(『なんでも』というワードに気持ちが揺らぎそうになるが)。そも、肝心なことを訊いていない。これを訊かずして判断するのはおかしな話だ。


「シュミネ、どうやって僕がここに辿り着いたかはわかったよ。………魔法だけじゃなくて、君のことも、ペルさんのことも、全部信じるよ。でも……一ついいかな。僕は『温厚なシュミネがどうして人を頼ってまで、異世界の人間を招くようなことをしたのか』を知りたい。僕の返事はそれによって左右されるよ」


 僕の問いは、シュミネが隠そうとしていたことなのかもしれない。隠しきれるはずがないのに、それでも隠そうとしていたのかもしれない。


 少しの沈黙が生まれた後、シュミネは胸に手を当て、目を閉じて、まるで神にでも祈るかのような清々しい表情で語り始めた。

Twitter:@shion_mizumoto


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