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第三話 案内に、お昼ご飯に、至れり尽くせり

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 ココウマデ平原はあまりにも広大で、幾ら歩いてもずーっと同じ景色が続いている。依然としてここがどこかはわからないが、一つだけわかったことがある。ここは、東京ではない。東京にこんな場所は存在しない。


 僕は、だんだん増してきた不安な気持ちを拭うために、シュミネとの会話に没頭し続けた。


 歩き始めてどのくらい時間が経過したのだろう。そんなこともわからなくなるほど疲労が蓄積して、体力の限界がすぐそこに迫っていると思ったその時だった。ようやく目の前に巨大なお城が見えてきた。あれは……アミューズメントパークだろうか?


「シュミネ、あの建物はなにかな?」


「あちらは、サコック・ツンデ帝国のサコック・ツンデ城でございます。先ほどおっしゃっていた通り、やはりなにも覚えてらっしゃらないのですね」


「うん……。ただ、なんとなくだけれど、多分ここに来たことはないと思うんだ。……なんだか不思議な世界に迷い込んだ気分だよ」


 この場所にいて、この場所のことを知らないという見知らぬ男性に対し、シュミネは親切にも付き合ってくれた。きっとこの子はモテるんだろうな。


 胸に手を当ててみると、いつものように鼓動が感じられた。だけど、異常な速度だ。あまりの可愛さに、少し動揺しているのかもしれない。


 ――突如、目の前を巨大なドラゴンのようなものが、僕らを横切るように低空飛行して、天高く飛んで行った。


 ……………は???????!!!??


「えぇぇぇええええぇえぇえええ!!!!」


「きゃあっ!」


 僕の大声に驚いたシュミネが尻餅をついた。


「ご、ごめん!」


 僕は、デニムパンツで手汗を拭いてから、シュミネに手を差し出した。


 シュミネは、僕の手を取り、起き上がった。


「申し訳ありません」


「シュミネが謝るようなことじゃないよ。僕が急に大きな声を出したのがいけなかったんだ」


「いいえ、ヘンゾーさんは悪くありません」


「……あの、シュミネさん?」


「………はい?」


「手が…………」


 立ち上がった後も、何故かしっかりと手を握られている。


 シュミネは、僕の一言でそれに気付き、すぐさま手を引っ込めた。


 普段なら『僕の手って、もしかして臭い?』とショックを受けていたところだが、今回はそんなネガティブな考えは浮かばなかった。まあ、頬を真っ赤に染め、恥ずかしそうに身を捩っているシュミネを見て、悲壮感に浸る勘違い野郎はいないだろう。


 って、そんなことはどうでもよくて!


「シュミネ、さっきのはなに?」


「は、はい。先ほど横切ったのは、オーダンドラゴンでございます。この周辺ではよく見かけるドラゴンですね。特徴としては、歩行者の目の前を横切ることが挙げられます。怖そうな見た目をしていますが、こちらから攻撃しない限り……」


 僕はシュミネの言葉を途中で遮った。


「ちょっと」


「いかがなさいましたか」


「いや、言っている意味がわからないんだけれど。ドラゴンって………あのドラゴンのこと?」


 シュミネは、顎に手を当て、考える素振りを見せた。


 少し間が空いてから、返答が来た。


「申し訳ありませんが、空を飛ぶドラゴンしか存じておりません。ヘンゾーさんがおっしゃっているドラゴンが、空を飛ぶ以外のドラゴンであれば…………」


 僕は、再びシュミネの言葉を遮った。


「いや、僕が言っているのは、その空を飛ぶドラゴンのことなんだけれど」


「ヘンゾーさん、もしかしてドラゴンをご覧になるのは初めてでしょうか?」


 初めてもなにも、僕以外の人類も本物のドラゴンなんて誰も見たことがない。そんなものを発見したら、翌日には世界的大ニュースになって、おまけにクラスの人気者になれる。


「初めて見たに決まっているよ。なにかの冗談みたいだ」


「私からすれば、その言葉が冗談なのかと思ってしまいます。そのくらい常識的なものですので………」


 常識的………もしかして僕の方がおかしいのか? いやいや、正気を取り戻せ僕。おかしいのは、どう考えてもシュミネの方だ。そして、ここら一体の雰囲気も、あのドラゴンも、なにもかもがおかしい。まるで『異世界』のようだ。


 ありえない話だけれど………異世界転移でもしちゃったとか……………いやいや、流石にないな。


「おー、サコック・ツンデ城、はっきり見えてきたね。凄いねえ、見れば見るほどアミューズメントパークなのかと思っちゃうよ」


「アミュ……なんとかパーク、その言葉もわかりませんが………歴史ある素晴らしいお城にございます」


「このままお城に入ってもいいの?」


 僕の言葉にシュミネは目を伏せた。


「入っても大丈夫かと訊かれてしまっては返答に困ります……」


「つまり入っちゃ駄目なわけだ」


「そういうわけではっ!」


「じゃあ、入ってもいいの?」


「困ります………」


「わけを訊いてもいい?」


「……そ、そ、そんなことより! ヘンゾーさん、お腹は空いていないでしょうか?」


 露骨に話を逸らされてしまった。まあ、後ろめたいなにかがあるのなら、無理強いする意味もないか。


「うーん、疲れはあるけれど、空腹ではないかな」


「そうですか……」


「この感じだと当分は持つと思うよ」


 そう口にした直後、腹の虫が苦しそうに『ぐぅぅうう』と合唱した。


「あはは、ごめんごめん」


「いえいえ。陽も高くなってきたので、ご飯にしましょう。私、二人分のお昼を作ってきましたので」


「……………」


「………いかがなさいましたか?」


「いや、おかしくない?」


 咎めると、シュミネの目が水泳選手と同等のスピードで泳ぎだした。


「……記憶にございません」


 政治家ムーブじゃないか。


「でも、さっき自分で『作ってきた』って言ってたよね」


「し、質問は端的にお願いします」


「わかったよ。なんで二人分のご飯を作ったの?」


「それは……………」


 返答は途中で区切られてしまう。


 シュミネの表情を伺うが、顔面蒼白。完全に思考停止しているようだ。


 はあ……行動が不審すぎるけれど、ここは謝っておこう。


「よくわからないけれど、とりあえずごめん」


「いえ、謝らないでください、頭を上げてください。細かいことはお気になさらず、ぜひお召し上がりください。腕によりをかけて作りましたので、きっとお気に召していただけるかと」


 早い、切り替えが早い。


 いやしかし、女の子の手作り弁当か………過去に類似のイベントがあったかどうかは思い出せないけれど、とっても貴重なことではないだろうか。


「うん。それじゃあ、いただいちゃおうかな」


 このココウマデ平原は凄く綺麗だから、ブルーシートを引く必要はないな。


 自然の絨毯に腰を下ろし、シュミネの準備を待った。


「ヘンゾーさん、どうぞ」


 シュミネは、丸々とした木製の箱のようなものを僕に差し出した。


 箱の中には見たこともない料理が綺麗に並んでいた。不思議な形をしたこの箱は、どうやらお弁当箱らしい。いやはや、昨今のお弁当情勢にはついていけないな。


 それにしても、非常に美味しそうだ。


 具材の彩りが、鼻腔を擽るジューシーな香りが、僕の食欲を掻き立ててくれた。


「ねえ、もう食べてもいい?」


 シュミネは、優しい笑顔で首肯した。


 僕は、いただきますの挨拶も忘れて、具材を口へと運んだ。


 こ、これはっ!!


「美味しい! 美味しいよ、シュミネ!」


「ほ、本当ですか? 喜んでいただけて嬉しいです! さあ、お飲み物もどうぞ」


 今度は木製の小さな筒を渡された、湯呑み茶碗だろう。


 お言葉に甘え、口にする。


 はあ………全身に幸せが染み渡っていく。


「こんなにも美味しいお弁当が作れるってことは、料理が趣味だったりするのかな?」


 問うと、僕とシュミネの間を生温い風が通った。


「いいえ」


 少し声色が暗くなった気がした。


「趣味じゃないのにこれほどの腕前とは、立派だよ」


「沢山練習しましたので…………この日のために」


 シュミネは僕のお弁当を見つめながら、

「ヘンゾーさん、おやすみなさい」

 と続けた。


 ??? おやすみなさい? な、なんで?


「どういう意味…………なん……だ……意識が……………」


 僕は、その場に倒れ込んだ。

Twitter:@shion_mizumoto


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