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第一話 落ちこぼれ作家による最悪の選択

 二作目となります、よろしくお願いいたします。

 処女作である『呪いコントラクト』もよろしくお願いいたします。


 ●少しでも面白いなと思われた方は、ブックマーク登録と評価をしていただけますと幸いです‼︎

 人生においてどうにもならない状況というものは存在する。


 例えば、家の鍵を冷蔵庫と食器棚の隙間に落としてしまってはどうにもならない。丁度いい感じの細長い棒を拾ってきても、必ず数センチ届かない。


 僕の『ライトノベルの新人賞結果発表待ち』というケースも、どうにもならない状況に当てはまるわけだが…………。


「やっぱり緊張する! 無理だ、お腹痛い! 腹痛でお腹痛いよ!」


 過度の緊張で、僕は思わず心情を吐露してしまう。


「腹痛でお腹が痛いって……。緊張するのはわかるけれど、今は落ち着こう? ヘンゾーは頑張った! だから、今回こそは大丈夫だよ!」


 眼前にいる『支寺するこ(しじするこ)』ことスルコが僕を宥めてくれた。


 いやはや、スルコがいなければ、今頃現実逃避のために、河川敷とかでひたすら走りまくっていたところだろう(その結果、普段の運動不足が祟って足がつった上に落選もするだろう……っておい! 落選はしちゃ駄目だろう)。


「それにしても、落ち着くために喫茶店を選ぶなんて、流石はスルコだよ。僕だったら河川敷を選びかねないからさ」


「なんで河川敷なの?」


 スルコがそのきらきらとした瞳を丸くして訊いてくる。


 いやしかし、『現実逃避のために走る』という話は、なんとなく恥ずかしいからしたくない。


 僕は、誤魔化すように笑って「なんでもないよ」と、かぶりを振った。


「もう、ヘンゾーって、たまーに変なこと言うよね。あ、そういえば、先週の件も誤魔化したよね! 駄目駄目。それだけは訊いておかないと」


 スルコは膨れっ面でそう言った。


 甘いね、追及を逃れるのは僕の得意分野だ。


「先週の件? なんの話かわかりませんな」


「嘘。あんな衝撃的なこと、忘れるなんて不可能だよ」


「はて。衝撃的なことが先週にあったんですね」


「いつまでとぼけるつもり?」


「…………」


 前言撤回、この追及からは逃れられない。


 僕は、話を逸らすためにコーヒーを流し込んだ。


「あっ! ヘンゾー! 時間!」


 その一言で我に返る。


 そうだ、もう発表の時間だ……落選、じゃないよな? いや、まだ結果を見なければわからない。僕は挑戦して、失敗して、それでも挑戦して、また失敗して、そんなこんなを繰り返してきた。今日でその負の連鎖を断ち切る! 最高にいい形でラノベ作家になるんだ!


 デニムパンツのポケットに手を突っ込むが……ない! あるはずのものがない!


「スルコ……スマホ忘れた………」


「えぇっ! じゃ、じゃあ、私のスマホ使って!」


 スルコは撫子色のショルダーバッグからスマホを取り出し、僕に手渡ししてくれる。


「いっつも迷惑かけてばっかりでごめんね」


「ううん、迷惑だなんて思ってない。それに、幼馴染なんだから、迷惑くらいかけていいんだよ。むしろもっと頼ってほしいくらい」


「ありがとう。よし、僕は夢を叶える!」


 震える手でスルコのスマホを操作する。


 賞の結果を見るには、出版社のサイトまでいかないといけない。サイトに辿り着くと、今度は賞の結果発表ページをワンタップしなければいけない。


 スルコの瞳は真剣味を帯びたものになっており、それを見た僕は首肯した。


 そして、ワンタップ。


 結果は………落選。


 スルコは僕の表情で察したのか、目を伏せた。


 終わった。全てが終わった。僕は、この作品に全身全霊を注いだ。それなのに……佳作にすら入らなかった。


 もはや取り繕うことすらできない、平静を装うことすらできない。


 シャツの胸ポケットから小銭を取り出し、テーブルに置いた。


「ヘンゾー…………」


「……なにも考えられない。このままここにいたら、スルコにだって八つ当たりしてしまいそうだよ」


 そう言って僕は店を飛び出した。


 なにが悪かったんだ………いや、そんなことは明白だ、自明の理というやつだ。


 全て、全てが悪かったんだ。


 僕は、自室の扉を閉め、その場に崩れ落ちた。


 駄目だった、なにもかもが駄目だった。ラノベ作家になれないなんて、僕には耐えられない。


 これで何度目だ? 回数がわからなくなるほど、僕は何度も繰り返し挑んできた。


 その度にスルコが「次こそは大丈夫だよ」って励ましてくれた。だから、ここまでやってこれた。けれど、もう無理だよ。


 予め決めていたことを実行する。落選したら、ラノベ作家を諦め、人生を諦める。


 ここで全てを諦める、それを思うだけで、心が軽くなった気がした。


 確か観音開きの押入れにカッターナイフを収納していたはずだ。


 迷うことなく、僕は押入れの前に立った。


 また来世、そこで頑張ればいい。


 お父さん、お母さん、ごめん。スルコ……ごめん。


 ちらとベットの置き時計を見た。九月二十五日の午後一時五分、僕は命を………絶つ。


 意を決した僕は、勢いよく押入れの扉を開いた。


 その直後、眩い光が僕を包み、意識を失った。

 Twitter:@shion_mizumoto


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