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欠陥と呼ばれる魔術師  作者: まじゅつし。
第一章 平民と魔術
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第二節 欠陥と野外演習 3


ブクマ、そして誤字報告感謝です!神機能!


(色々詰めたら長くなりました)


ダンがゼースに一撃を加えていた頃、フロズはかなり追い込まれていた。

風属性の魔術による見えにくい刃による遠距離からの攻撃、接近しても身体強化によって移動速度が上がっており、捉えることが出来ず防戦一方だった。



「もう結界も半壊している。終わりね」

「む、言い訳するようですが、僕本来の戦い方が中々出来なくてですね」

「単にこれが貴方の実力なんじゃない?ひとまず、トドメを刺させてもらうわ」

「フロズ!」

「おっと、お前の相手は俺だ!」



ダンがフロズを助けに行こうとするが、ゼースの炎に阻まれて助けに行けない。

だが一方のフロズは魔術を行使する気配は無く、ただアイリーンを見据えている。



「反撃もせずに諦めたの?まぁ、いいわ。『風の刃(ウィンド・エッジ)』」



無数の刃がフロズの結界を切り裂かんと飛来する。

アイリーンは、フロズが自分の魔術対して反撃しないのは諦めたか、単純に速すぎて反応出来なかっただけかと思い込んでいた。

しかし一瞬、魔術がフロズに到達するその瞬間、アイリーンはフロズが笑みを浮かべたのを見逃さなかった。



「後ろですよ」

「なっ!?」



今この瞬間、魔術が直撃したはずのフロズは、アイリーンの背後に突如現れ『氷の剣(アイス・ブレード)』で一撃を加えた。

アイリーンの結界を破壊するまでには至らなかったものの、防御も無しで直接叩き込んだそれは結界にヒビを入れれ致命傷となる。

一撃喰らったアイリーンは苦虫をかみしめた様な表情で強化された足使って跳躍し、フロズと距離を置く。



「一瞬で私の背後に?いや、魔術でそんな事は...」

「あらあら、後ろがガラ空きですわよ」



どうやって反撃するか、そもそもフロズがどうして瞬間的に移動したのかを考えていたアイリーンだったが、声と同時に現れた人物に全ての思考を持っていかれた。

背後に現れたのは、自信に満ちた声色でいかにも高飛車な雰囲気も纏う貴族の女子生徒...フローラに他ならない。

防御の魔術を行使する時間も、体を捻って避ける余裕も無かったアイリーンは、フローラの氷の剣の一撃をまともに喰らい、魔道具の結界が音を立てて崩壊した。



「撃破ポイント、頂きますわね」

「...貴方達、何をしたの?」

「簡単ですわ。ダンが攻撃に転じた後、貴女に攻撃したのがわたくしだったと言うだけの事。弟はしばらく隠れていただけですわ」

「いつの間に!私はまんまと罠に掛かっていた訳だ」



突然現れたような見えたフローラだが、実際にはこの戦闘が始まる時には既にこの場にいた。

ダンとフロズはただ逃げ回っていた訳では無く、フローラが自分達に合流するまでの時間を稼ぎ、アイリーンとゼースが少し距離が離れたタイミングで、魔術を使って姿を隠していたフローラと合流した。

そしてダンがゼースの魔術に突っ込んでアイリーンの視線がフロズから外れた瞬間、フロズは魔術を使って身を隠し、フローラがまるでフロズに見える特殊な魔術を使って入れ替わっていた。



「『幻惑(イリュージョン)の水鏡(・ウォーターミラー)』、余り知られていない魔術ですが、物は使いようです」

「ふーん、覚えておくわ。ゼース!やられたから先に帰るわね」

「む、1人増えたな。了解した。悪いがこの勝負、お預けにさせて貰おう。『爆炎(エクスプロージョン)の閃光(・フラッシュ)』」

「うわっ!眩しっ!」



アイリーンが撃破された事を知ると、すぐさまゼースは退却の選択をし、閃光を放って目眩しをしてその場から走り去ろうとした。

が、それを許さない人物が1人。



「あら、もうお帰りになるのかしら」

「しつこい女は嫌われるぞ」



フローラは閃光を物ともせず、ゼースの背後から『氷の剣(アイス・ブレード)』で斬りつけるが、相手はそれを拳で弾く。



「はぁっ!」

「ふんっ!」



剣と拳による攻防が続くが、フローラがゼースのパワーを上回る事は出来ず、力任せに押し返されてしまい、フローラは吹き飛ばされて体勢が一気に崩れた。

追撃に備えるフローラだったが、ゼースはそのまま一気に跳躍をして距離を取り、走り去って森の中に消した。



「すまん!急に逃げるとは思ってなかった!」

「あの方の判断が早かったので仕方ありません。ですが、分かっていますわよね?勝手な行動をして、あわや大惨事になる所でしたわ」

「その、えっと...えへ」

「一度死ねば理解するかしらね」

「ごめんなさい!ごめんなさい!まさか、あいつらがこんな強いとは思わなかったんだよ」

「姉さん。僕も被害者ですので」



平謝りするダンにフローラが冷たい視線を送り、それをフロズが眺めると言う彼らにとってはいつものやり取りが始まった。

作戦にない予定外の戦闘ではあったが、無事3人は全員生き残り、かつ撃破ポイントを獲得する事が出来たのは彼らにとって大きい収穫だった。


―――


「勝てたなら良かったんじゃないか?」

「そうなのですけど、チームの人数とわたくし達の位置が他チームに知られてしまいましたから、これが後にどう影響するのかが心配ですわ」



戦闘後は接敵せず、無事結界内に帰ってきたフローラ達からリシアは事の顛末を聞いていた。

ゼースを逃した事で情報が漏れる心配はあったが、幸いスレイの薬品を使っていたおかげで結界の存在に気づかれてはいないはずなので、リシアはとしては特に心配する事はなかった。



「痛たっ!染みて痛いんだが!」

「無茶するからですよ。結界は直接的な攻撃こそ防いでくれますけど、打撃の衝撃は入るんですから」

「全く、大の男が情けない声を出さないでくれるかしら」

「だってよー」

「あ!動かないで下さい!」



フローラは全くの無傷、フロズも魔道具にこそダメージが蓄積されているが外傷は特に無かったが、ダンはゼースの拳を受けた際の衝撃を何発か喰らっており、腕や体の数カ所にあざが出来ており、今はスレイから治療を受けていた。



「ダンの結界は多少持ち直しました。ただ、やはりあと一撃をまともに受ければ崩壊しますね」

「それで十分よ。今日は終了時間まで結界の内にいましょう。チームの一つ撃破したかったですけど、無理をして全滅するよりはマシですわね」

「まぁ、妥当だな。結界の維持は私がするから、みんなは休んでて構わない」

「ありがとうございます。少し魔力を使いすぎて疲れたので、僕は一旦休ませて頂きます」

「あぁ。あっちにテントを設置してるからそこを使え」

「有り難く使わせて頂きます。では」



戦闘中はずっと魔術を行使し、帰ってきてからもダンの魔道具に魔力を流し込んだせいか、少し顔色の悪かったフロズはそう言って、事前に準備していたテントの方へ居なくなった。



「そんなに強かったのか、ゼースとか言うやつは」

「そうですわね...。余力を残すよう力を抜いていたとは言え、ダンとフロズが傷を負うほどならそれなりにやれる方かと。アイリーンさんも不意打ちで倒しましたが、中々の技量をお持ちでした」

「思ったんだが、君はきちんと他人を評価するんだな」

「あら、わたくしの目が腐っていると言いたいのかしら?」

「仕方ないだろう。私自身は気にも留めなかったが、私の体質を知った人間は大体が偏見の目を向け、本質を見ようとせず先入観だけで私を決めつけた。なのに、君...貴族あるはずの君は、こうして私と普通に接している」

「そうですわね。前にも言いましたが、少なからずわたくしは貴女と共感できる部分あったのもあります。けれど、それ以前に他人の力を認められない阿呆が大成などできると思いますの?」

「それもそうか」



リシアからすればスレイと言う友人が出来た事や、フローラ、フロズ、ダンなど偏見を持つ訳でも気を使う訳でもない人間と関わるのは予想外だった。

会話下手では無いが話す相手は家族だけ、部屋にこもって魔術の研究に明け暮れていた彼女からすれば、彼らの様な存在はある意味未知の存在と言えた。



「...そう言えばわたくし、貴女に謝らなければいけない事が一つありますの」

「そんな事あったか?」

「ふふ、やはり忘れていますわよね。入学初日、貴女がマークス様と決闘する事になった後、わたくし達3人は貴女に声を掛けたんですの。表面上は止めた方がいいと言う意味を含めた言葉でしたが...心の奥底、本質では『お前なんかには無理だ』なんて言う傲慢な思いがあった筈ですわ」

「ふーん。それで?別に何を思うのかは自由だろ」

「少しは体裁を気にしなさいな...。兎に角、こんな考えを持った時点でわたくしもまだまだ未熟だったと言う事。ケジメとして、しっかりと謝罪をしますわ」

「悪れてる事を謝られてもだな...ま、分かったよ。許すよ」

「随分と雑ですわね...」



今でこそ落ち着いたが、入学してから数日間など毎日好奇心の的にされたり面と向かって悪評を流されたりと、一つ一つに構っていたらキリがない状況だったのもあり、初日に話し掛けてきらフローラも有象無象の1人でしかなく、覚えてなど居なかった。

それに、『今』のフローラに好感がある以上、『過去』のリシアが自分を見下していようがいまいが、リシアにとって些細な問題ですら無い。



「この話は終わりでいいか?この後は順番に見張りをして、終了時間まで隠れればいいんだな」

「そうですわね」

「そうか。なら暫くは私が見張りをはするから、君も休んでいてくれて構わない。ダンも少し安静にした方がいいだろうし、スレイもそこそこ魔力を使っているしな」

「一人で大丈夫ですの?貴女の技量を疑う訳ではありませんが、自分で戦闘は不得意だと言っていましたわよね」

「見張りくらいなら問題無い。それに、逃げ足は速いから心配するな」

「分かりました。ですが無理はなさらないように」



ひらひらと片手を振ると、リシアは結界の境界線の方へと歩いて行った。


―――


野外演習に然程乗り気でも無かったリシアが、自分から見張りを申し出て、しかも一人で率先してやるなど変な話だった。



「さーて、出てきてもらおうか。ストーカー」



結界の境界線の外側、スレイが錬成した特殊な煙幕が薄く空気中に広がる場所で、リシアは声を上げた。

声に反応は無い。

しかし、リシアはとある木の一点を見つめ、まるで誰かに話し掛ける様に声を張る。



「この平民は攻撃魔術が扱えない欠陥、まさか自分に気付く筈など無い。きっとでたらめに声をあげているに違いない、そう考えているな?そうだな、お前みたいな魔術師からすれば私そうなんだろう。けど、流石に頭が硬すぎないか?ほらっ」



リシアは見つめていた一点に、隠し持っていた小袋を投げ付けた。

そして『何か』に当たると小袋の中身が宙に撒かれ、青色の粉末がそこら中に舞う。

すると、口元を押さえた人影が姿を現し、木の上から落ちてきた。



「ゴホッゴホッ!貴様、何を投げた!」

「ようストーカー。独特の青色の煙、激しい喉の痛み。お前みたいな魔術師様ならご存知だろ?トーリンの毒だよ」

「なっ、ギサマ正気か!」



トーリンの毒、猛毒を体内に精製するトーリンと言うトカゲの様な魔獣から抽出した致死性の猛毒。

ひと昔前までは貴族の毒殺、戦争の兵器などの使われ方をされてきた悪名高き猛毒であり、現在では解毒方が確立されてはいるものの、使い勝手の良さから使われる事も少なくはない。

毒の特徴として、加工して粉末状にすると鮮やかな青色に変色し、吸引すると喉に腫れ激しい痛みを伴う。



「正気かと言うが、まさか私の後をずっと尾けておいて言ってるのか?見た目からしてフィルマの関係者でも無い。なのに敷地内にいる、それだけで十分だろ」

「ゴホッ、お前、まさか最初かラ...?」

「最初が何処を指すのかは知らないが、私が山に入った段階であんたが私と距離を取って遠巻きに監視していたのは気づいていたよ」

「嘘だ!アりえない!」

「水属性の魔術で身を隠しただろ?ご存知の通り、私は攻撃魔術を扱えない欠陥ではあるんだが、その代わりに何故か元素に干渉する能力が異常でな。ほんの少しの揺らぎ、それであんたの位置はバレバレだったよ」



異常なまでに研ぎ澄まされた元素干渉能力、これがリシアが原始魔術を扱える様になった一番の理由であり、他の魔術に干渉するなどと言う現象を可能にした力だった。

この力は第六感的能力であり、リシア自身も何故自分にこの能力があるのかを知る由もないが、長い年月を掛けて磨き続けており、今では手足を動かすように扱う事が出来る。

ので、魔術式そのものは分からなくても、近くで魔術を行使している人間がいるかなど容易く感知出来た。



「ゴホッゴホッ、くそ、そんなノ聞いてないぞ!」

「なぁ、あんたいつまで私を睨みつけるんだ?毒を投げたのは私だが、別に本気で殺す気はない。だがら、さっさと解毒しに下山しろよ。ま、雇い主様にドヤされるだろうがな」

「ドコまで知っている」

「さぁな。あんたらの目的を最初から知ってた訳じゃない。でもよ、()()されたら嫌でも分かるよ。ダン達と戦った二人組、そいつらをここまで魔術で誘導したのあんただよな」



リシアはダン達が接敵したと話を聞いた時、既にこの男のことを疑っていた。

結界を展開し薬をばら撒いたこの近くで、偶然近くを散策していた他チームと接敵してしまった。

話を聞いただけで確信が出来なかったが、結界の外に出た時、明らかに結界近くまで誘導する様な形に魔力反応が残っていた事にリシアは気付いた。



「適当な魔術を使って魔力反応を残し、あの2人をこの近くまで誘導した。たしかに、魔力感知がし難くなる薬を撒いてるとはいえ、あんなくっきり残っていたら気付くよな。で、お前の目的は私の邪魔をしたかった訳だ。別に私に害を加えようとする分には構わないが、流石に周りに迷惑をかけてのは止めて欲しいな」



リシアはそう言うと、少しずつ男に近づく。

表情から感情は読み取れず、自分に冷たく刺さる視線に男は少しずつ恐怖を感じていた。

それも当然だ、目の前の平民の少女は迷いなく自分に猛毒を浴びせ、全てを見透かした上で今に至るまで自分を放置していたのだから。



「くっ、くるナ!ゴホッゴホッ」

「だったら逃げろよ。ほら」



男は後退りして立ち上がると、だるそうな体に鞭を打って逃げ出した。

その時の男の頭の中は、少女から感じる底知れぬ恐怖と自らを蝕む猛毒を解毒する事で一杯で、このまま逃げ出せば雇い主から酷い仕打ちを受ける事も、そもそも猛毒を浴びた割に()()()()()()()事など失念していた。



「ぶっ、ははは!これは傑作だ」



男が逃げ出し、姿が見えなくなった所でリシアは必死に抑えていた笑いを溢し、爆笑した。

他人にあまり興味のないリシアだが、別に容易く殺人を犯す様な残虐な性格でも無い。

投げつけた小袋に入っていたのは猛毒...では無く、香辛料として持ってきていた唐辛子の粉を、スレイに頼んで青色に変えていただけの辛い粉。

喉を痛がっていたのは単純に辛いから、そんな子供騙しを、あの男はリシアに見つかった衝撃も相まって見破る事が出来なかった。



「はぁ...ぷっ、思い出すだけで面白いな」



恐怖に震えて、自分に悪魔でも見つけたかの様な表情をしていた男の顔を思い出し、若干笑いが止まらなくなったリシアは、結界の周りを一通り警戒すべく歩き始めた。


(棒線みたいなやつは、若干時間が飛んだ時に入れてみてます。細かい描写入れすぎると進行が遅くなるので入れてますが、やりすぎると公開情報が薄っぺらくなるジレンマ...)

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