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欠陥と呼ばれる魔術師  作者: まじゅつし。
第一章 平民と魔術
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序 執務室でのやり取り



リティシア王国が誇る最高学府フィルマ、その建物の最上部に位置する学園長の執務室だが、今はピリピリとした空気が流れている。

もっとも、その空気を流しているのはこの部屋に一方的に押しかけ、理論と感情論がごちゃまぜになった言い分、それを怒気混じりの口調で言い放ち、今は少し息が上がっている若い教師だけなのだが。

そしてその教師の視線の先、執務室の一番奥のデスクに腰を下ろしている白髪の老人...フィルマの学園長でありこの部屋の主である彼は、彼の一方的な暴論に眉一つ動かさず、年齢相応の落ち着いた態度で最後まで話を聞いていた。

少し間が流れ、学園長はカップに入った紅茶を口に含み一息つくと口を開いた。



「ふむ。お主の長い言葉をまとめるなら、件の少女はこの学園の入学条件を満たしておらず、入学させる事自体が間違いだと」

「そうです!この平民の少女の入学を許せば、間違いなく最高学府と名高いフィルマの名誉を傷つけます!」

「そうか。トビアス、この少女は学園の入学条件を満たしていないか?」

「いいえ、彼女がリティシア王国の出身である事は確認が取れていますし、試験結果からしても合格ラインを考えれば十分な成績かと」

「そう言った問題ではありません!」



一歩後ろで控えてたトビアスと呼ばれた青年は、学園長の問いに淡々と答えたが、若い教師は顔を真っ赤にしてそれに反論した。

この話の議題は、来月迎えるフィルマの新入生の選抜に関する内容。

例年なら試験結果を参照し、身元の確認が済めば終わり作業であるためとっくに終わっている筈なのだが、今年はとある平民の少女の入学を許可するかで戸惑っていた。

少女の入学に賛成しているのが、学園長を始めとした熟練の魔術師である教師達。

反対しているのが、先の戦争で活躍して地位を確立した貴族の家の後継などがいる若い教師達。

そして今正に顔を真っ赤にしているのが、後者の中心人物であるフィル・アレクシアと言う魔術師であり、少女の入学を頑なに認めない人物だった。



「フィル先生、お主達反対派が言いたい事も分かるが、その主張こそ間違っていると分からないのか?」

「いいえ、学園長。お言葉ですが、今回ばかりは貴方が間違っていると胸を張って言えるでしょう。何故なら、『攻撃魔術が使えない』と言う欠陥を抱えた平民を、この学園に入学させるなんてあり得ませんからね!」



フィルは自身気にそう言い放つと、何も言い返さない学園長を嘲笑うかの様な表情で見下ろしていた。

攻撃魔術とは、文字通り敵の駆逐や魔獣討伐の為に生み出された魔術であり、太古の魔術が衰退した現代では殆どの魔術師がこの魔術を扱う。

つまりこの魔術が使えないと言う事は、『現代の魔術師』に当て嵌めれば欠陥と言わざるを得ず、どんなに少女が試験を好成績だろうが、反対派からすればそれ以前に魔術師として認められなかった。

また少し間が流れるが、それは別に学園長が返答に困っているからでは無かった。



「...では、この少女を学園長推薦として入学させるしかあるまいな」

「なっ!?正気ですか!」

「正気も何も、前例が無いとは言え本来ならフィルマの生徒たる資格を有しているのだから、学園長として権力を振りかざしてでも入学させるのが義理じゃろ」

「くっ...分かりました!推薦で入学されるくらいなら、普通に入学させます!手続きがあるので失礼します」



普段から温厚で、地位を私欲で使う事がない人物からのら思わぬ言葉に少したじろいだフィルは、仕方なく引き下がると荒々しく扉を開け放ち、苛立ち気に部屋から出て行った。

ただ、彼がこうなるのも無理がなかった。

学園長推薦とはそのままの意味で、フィルマの学園長が才能を見込んだ子供を毎年一人だけ試験を受けさせずに入学させれる物であり、当然ながらその推薦を受けた生徒は箔がつく。

ただ、歴史を振り替えってみても学園長推薦が使われた例はかなり少なく、更には生徒の評価が直接学園長の評価にもなる事から、この制度はあってない様なものだった。

だから、強気にいけば押し切れると思っていたフィルからすれば、学園長の意思の固さに驚いたのだろう。




「慣れない事は言わないべきじゃの。少し疲れたわい」

「フィル先生もたじろいでいらっしゃいましたね...ただ、その...」

「ふむ、トビアスも何故私がそこまでするのか分からない、っと言った表情だな」

「はい。別に、先生の考えに反対する訳ではありません。でも、試験結果以外で考えるなら、決してフィル先生の言い分も間違っている訳では無いと思いました」



仮に試験結果が良いとは言え、彼女より優秀成績で入学する生徒もいる訳で、反感を買ってまで彼女の入学を押し切る理由は秘書であり弟子でもあるトビアスですら分からなかった。



「...4年前の夏、休暇を取って私が避暑地に行ったのは覚えておるか?その時に、偶然立ち寄った村で出会ったのじゃよ」

「あ、やはりお知り合いだったんですね。4年前...確か...」



そう言えば、とトビアスは自分の師匠がその旅行帰りから何故か魔術の研究に打ち込み始めたのを思い出す。

その時は戦時中は英雄と称され、リティシアで一番の攻撃魔術の使い手であった学園長が、急に古い文献を持ち出し、とっくに廃れた魔術の研究を始めたのかを疑問に思った事も思い出した。



「そう、その頃から私は攻撃魔術の研究の一切を辞め、魔術の研究に打ち込んでいる。そのきっかけとなったのがこの少女なのじゃよ」



それから語られた平民の少女の話、その内容は、いくら弟子のトビアスでも素直に信じられる内容では無かった。

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