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サンダーソニア

 その星の前を通るとき、人は誰しも一種の畏敬の念を抱く。そこは禁踏地に定められ、保護された惑星だ。遥か以前、人類がその地表の大半に暮らしていた青い星だ。

 度重なる地殻変動によって陸地の大部分は海に沈み、かろうじて水没を免れた陸地はどれも人類がいた頃より遥かに標高が高い。生態系や大気の組成も大幅に変化し、もはや人類が帰るべき場所としては不適な地だ。

「そもそも地殻変動が起きる前から大気も海洋も汚染されていて、近いうちに住めなくなることは分かってたって話だ」

 パトロールシップの展望席で、同僚が言う。

「でもそれは……おれたちの祖先があの星にいたのは、もう何百年も前のことだろ。それなのに……」

 おれの言葉を遮るようにして、船内に警報音が鳴り響いた。同僚が慌てて駆け下りてきて、おれの隣席に滑り込む。

「仕事だ、話は後」

「了解」

 対象は小型の家庭用船舶で、中には男が一人乗っていた。おれと同僚が錨で緊急停止させて乗り込んだ時には、あの病特有の、夢見るような表情を浮かべて操縦桿を握っていた。遠慮なくばしばしと頬を叩いて覚醒させると、男は自分が今し方とんでもない自殺行為に及んでいたことに気がついて、頭を何度も下げて謝って去って行った。小さくなっていく船を見送りながら、おれは先ほどの続きを呟く。

「おれたちの祖先があの星にいたのは、もう何百年も昔のことなのに……なのにああなっちまう奴が出てくるのは、どういうことなんだろうな」

『望郷』。あの星の近辺を通過しようとする人間が、しばしば発症する衝動性の病の呼び名だ。あの星に着陸すること自体は不可能ではないが、上陸しても数秒で窒息死するのは目に見えている。そんな場所に行っても仕方ないのに、それを発症すると、どうしてもそこへ行きたくなると言う。おれたちはそんな人間を見つけ、保護して回っているのだ。

「理由なんて無いだろ。ただ……あの星だけが、結局はオレたちの故郷なんだってことなんだろうさ」

 同僚はつまらなそうに肩をすくめた。

花言葉「望郷」

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