表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/365

ホウセンカ

 それは禁忌だった。その、白い肌に触れるのは。


 戦の神に愛された「奇跡の少女」をひと目みようと、見物客でごった返す中をかき分けて進んでいたら、不意に全然人のいない空間に押し出され、気がついたときには、ぼくの指は彼女の指に触れていた。遠くから見た時には無表情だったその顔に、驚きと戸惑いが浮かび、刹那、その視線がぼくを捉えた。

 しかし次の瞬間、ぼくは両腕を拘束されて床に転がされたので、すぐに彼女は視界から外れた。

「神の愛子が汚された……」

「なんてことだ、次の戦はもうすぐだというのに」

 周りからそんな声が聞こえてきて、ぼくはことの重大さに気がついた。

「奇跡の少女」に触れてはいけない。触れてしまうと、その神通力は失われる。即ち、国が戦に負ける。

 牢に入れられた時には、もう諦めがついていた。どうしようもない。きっと国賊扱いの上、処刑されてしまうのだ。

 だから、石造りの冷たい部屋に、高めの声が響いた時には心底びっくりした。

「あなたを逃しに来ました」

「奇跡の少女」が、鉄格子越しにこちらを見ている。神託を告げる時しか発されないその声色は可愛らしく、とても生贄の儀を執り行なうようには思えない。

 開け放たれた扉から恐る恐る出ると、彼女は花のような微笑みを見せた。

「あなたのお陰で、私は力を失いました。人が暖かいのだと知ってしまったから……もう、私には生贄を捧げることは出来ません」

 そう言って、ぼくの手を取った。

「儀式のできない私は、きっと殺されるでしょう。だから、一緒に逃げましょう。この国の外へ。もっと温かい場所へ」

 少女の手は、ぼくなんかより余程、暖かくて柔らかかった。

花言葉「触れないで」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ