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ヒガンバナ

 彼岸花が波のように揺れる中、黒い着物の女がうなだれて立っている。木々の間を吹き通る冷たい風が、彼女の長い黒髪を乱す。私は目当ての墓へ参った帰りで、そそくさと、彼岸花の群れの隣を行き過ぎようとした。

「もう二度と逢えないなんて、信じられないのです」

 女の声に、私は足を止めた。辺りを見回すが、私以外に、彼女が声をかける相手は見当たらない。気にせず通り過ぎてしまえば良かった。後悔する私に追い討ちをかけるように、女の言葉は続く。

「あんな安らかな顔で死んでしまったなんて、あきらめきれないのです。……だから、月の綺麗な晩に、墓を掘り返したのです」

 掘り返す?

 今どき、土葬でもあるまいに。私は不思議に思い、つい、足を動かす機会を逸した。

「月の光が美しく、私の振るうすきを輝かせました。何遍も何遍も、腕が痛くなっても掘り続けました」

 その時の痛みを思い出すかのように、女は自分を抱くように腕を組み、さすった。何遍も何遍も、とうわ言のように繰り返した。

「……そうしたら、……」

 私は生唾を飲んだ。

「そこには白い地獄花があったばかりでした」

 地獄花、というのは確か、彼岸花の別名だ。しかし、そんなことがある筈はない。死者が葬られたのなら、そこには身体が……少なくとも骨くらいは残っている筈だ。それに、なぜ土中に花など。

 きっとこの女は、少し変なのだ。それか、私をからかっているのだ。

 私は興醒めするような気持ちになり、そろそろと歩き出した。そこへ、一際感情のこもった女の声が響いた。

「私はそれをひと目見て、すべてを了解しました。あの人は私をその姿で待ってくれているのだと。だから私は、人に頼んで、ここに埋めてもらったのです」

 私は思わず振り返り、それから脇目も振らずに走り出した。

 女の立っていた場所にはもう誰もおらず、白い彼岸花が二輪、並んで風に揺れていた。

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