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ポットマム

「わたしたちの一生ってさ、最大公約数探しなんだよね」

 要はお互いに探り合いをし続けないと生きていけないって訳だ、と、先生は嘆息する。教室中の皆、口を挟まず野次も飛ばさず、黙って聴いている。否、殆どのクラスメートは、黙って精神だけどこか彼方へ飛ばしているのだ。先生の授業中の雑談は毎度のことで、良い休憩時間だと捉えている生徒が大半だ。

 先生は方程式を書きかけのまま、私たちの顔を見回す。

「皆の中にも、先生に言えないことを隠している子がいるだろうね。そうなると、それがバレないだろうか、先生は気がついてて知らないフリをしているんじゃないか……そんなことを思い始めて、疑心暗鬼に陥ってしまう」

 チョークを置いて、先生は机間巡視を始めた。慌てて隠し持っていたスマホを机に隠す生徒が数人。居眠りしている隣の友達を小突く生徒も数人。

「わたしも同居している妹がこっそりわたしのプリンを食べてしまったに違いないと思い込んで、すっかり人間不信になってしまったことがある」

 器の小ささをアピールすることにどんな意味があるのか、先生はそんなことを言いながら、ウロウロと教室中を歩き回る。

「例えば……例えば、だ。この間の服装指導の際、ズルをして、忘れた制服のリボンを人に貸してもらった人間がいたとする」

 先生の足は、廊下側の席の前でピタリと止まった。そして、一人一人の反応を吟味するように、再び歩き出した。

「検査中は上手く切り抜けたかもしれない。しかし、わたしはプロだ」

 先生の足音が、私の席へ近づいて来る。

「プロは誤魔化しを見破ることが出来る」

 私の隣に立ち止まり、私の机に手を置き、先生は言う。

「もちろん、これは例えばだ……例えばわたしは、それに気がつきながら気がつかないフリをすることも出来る。逆に、糾弾し、吊し上げ、内申点を下げることも出来る……」

 先生は暫くそこから動かず、そちらを見上げることも出来ない私の頭上に声を降らせた。

「さて。この場合の最大公約数は、何だろうね」

 わざとらしい憂いを帯びた声色に、私は明日の朝、プリンを買って登校しようと思った。

花言葉「気持ちの探り合い」

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