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ハマシオン

 シオンには日課がある。毎日、昼と夜に一度ずつ、『彼』のことを想うという日課だ。その時には、必ず持ち歩いている小さなロケットを開き、その中の『彼』を数分間見つめる。何をしていても、どんな状況でも、それだけは欠かさない。私と一緒に買い物を楽しんでいる最中だろうが、全速力で走らないと乗り換えに間に合わないという時だろうが、お構いなしだ。

「短期記憶と長期記憶ってあるじゃない」

 ある時、シオンはそんなことを言った。大学の図書館で、私が必死に古書と格闘している前で悠然と日課を済ませた直後のことだ。私が唇を尖らせていることに気が付いたのかもしれない。

「彼はもう、私の記憶の中でしか会えない人だから、私が忘れたら、二度と会えなくなっちゃうんだよ。だから、短期記憶じゃなくて長期記憶に留めたいなって思って」

 ただの恋愛脳なのかと思っていたけれど案外、重い理由だった。私が感心して頷くと、シオンは続けた。

「記憶の中でしか会えないって、なんか不幸だなって思ってたんだけどさ。最近はむしろ幸せ者だなって。だって、普通なら待ち合わせしたり待ち伏せしたり、同棲したり結婚したりしないと一緒になんていられない訳だし、それだって物理的に会えないことがある訳でしょう。でも、私は違う。私が覚えている限り、思い出せばいつだって、彼と会える。物理的には会えない分、物理的な制約が無い」

 ちょっと物騒な言葉が聞こえた気もするけど、言いたいことは分かる。シオンは満足そうにロケットをしまった。

「でもさ、シオン。自分の記憶を反芻していくうちに、その『彼』は、実際とは違う人になっちゃってるんじゃない?」

 冗談めかして言うと、シオンは夢見るように微笑んだ。

「そこが良いんじゃない」

花言葉「君を忘れない」

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