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ブルースター

 思えば遠くまで来たものだ。

 私の故郷は美しく、澄んだ空気に包まれて、清水が山と動物たちに恵みをもたらしていた。しかし今、この部屋の窓から見えるのは、忙しく歩く人たちと、灰色の街並みだけだ。

 それでも私がここにい続けられるのは、ひとえに愛しい彼女のためだ。彼女は起きてすぐ、私に声を掛ける。そして、彼女自身と私のために食事を用意する。山育ちの私のためにと、窓を開けて新鮮な空気を招いてもくれる。私は、彼女の快活な話し声に活力をもらう。

 彼女が仕事に出ている間、留守を守るのは私の役目だ。この静穏を脅かすものが来ないかどうか、じっと立って見張るのだ。私が目を光らせているからか、この部屋が窃盗の被害に遭ったことはない。カーテン越しに射す日光は弱いけれども、慣れてしまえば心地よく、私は時折まどろみながら、彼女の帰りを待つ。

 昼の夢の中で、私は故郷の母や父、大勢の兄弟達と出会う。大丈夫、私は寂しくはない。彼女が良くしてくれるから。

 夕方、彼女が帰宅する。「サプライズよ」と言いながら、手に提げた袋から、小ぶりの植木鉢を取り出す。おお、山の神よ。鉢には私の仲間がいた。不安げに辺りを窺っていた仲間が、私を見て安心したように微笑み、小さく枝を揺らした。

花言葉「望郷」

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