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スパティフィラム

 心の清らかな者にしか、楽園の扉は開かれない。それは宗教的な話ではなく、この社会における地位や名誉に直接関わってくる現世的問題だ。人はどれだけ善行を積んだかによってランクづけされ、上位に行けば次の社会階層へ上がることができる。二つの階層は物理的に隔てられ、誰が呼び始めたか、出入りできる扉を「楽園の扉」と言い習わしているのだ。

「……ったく。なんだって国は、こんな妙な構造の鍵を付けちまったんだろうな」

「ぶつくさ言わない。手を動かす」

 オレのぼやきに、ササ先輩の叱咤が飛ぶ。三つ編みメガネのササ先輩は、可愛い顔して大層厳しい。オレは仕方なく、楽園の扉に繋げた端末に自己修繕用コードを打ち込んでいく。

 国民の善行ランクは張り巡らされた監視システムと個人識別タグを使ってAIが振り分ける。その情報を基に扉は開閉し、基準に満たない者が隙を見て入ったとしても警報システムが作動、処罰対象になる。そうしたシステム自体は大したこと無いのだが、国の運営に関わる為にハッキング対策だけはやたらと複雑で、しょっちゅう何かしらの不具合が起きる。それで、オレ達のような扉修理係がいるのだ。

「先輩。もういっそのことこいつ、クラッシュさせちまいましょうよ」

 馬鹿言うなと一喝されることを予想した半分冗句だったのだが、振り向いたササ先輩は「その手があったか」と呟いた。

 翌朝、オレとササ先輩とで「修理」した扉は誰が出入りしようが一切警報が作動しなくなり、分断されていた社会同士の交流が一気に解放された。オレ達は故意にエラーを引き起こしたとして逮捕されかけたが、犯罪行為によってマイナスになるべき善行ランクが、何故だか最高ランクに達していたため釈放された。

「あたし達のやったことは、この国にとって有用だってだけさ」

 というササ先輩の言葉通り、国民の多くが、扉による階層社会に疑念を呈し始めた。楽園の扉は近いうちに壊されるだろう。そして、きっとその時、本当の楽園が目の前に現れるのだと、オレは思う。

花言葉「清らかな心」

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