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アロマティカス

 河川敷とかいうあまりにベタ、王道中の王道過ぎて逆に珍しいくらいの舞台で、弟は二歳上の不良生徒五名と、たった一人で闘っていた。夕陽に照らされた川の美しさが、揉み合い取っ組み合い罵倒を飛ばし合う野郎共のお陰で台無しだ。

 おれは、ここまで案内してくれた美少女と共に、離れた場所から様子を観察している。弟は人数に気圧されることもなく果敢に立ち向かっているが、なにぶん多勢に無勢の感がある。

「今回の原因は?」

「購買のメロンパンです」

 美少女の話によると、購買で時折売られる老舗ホテル製作のメロンパンがあるらしく、数量限定のそれを巡って、此度の争いが起こったらしい。高校生とは言えあまりに低次元過ぎて一瞬めまいがしたが、弟の喧嘩が低次元なのは昔からだ。仕方ない。

 はあ、とため息をつきつつ立ち上がる。

「鎮静剤の出番ですね」

 美少女が楽しそうに言うが、見せ物ではない。渋面を作って、一人で河川敷へ降りて行く。おれに気づいたのは不良達の方が先で、最初はただの通行人が野次馬だと思っていたようだが、おれが平気で近づいて行くので弟の助っ人か何かだと勘違いしたらしい。肩を怒らせてやたらと首を回しながら迫ってきた。そこでようやく弟がおれの存在に気がつき、低次元な青春ドラマの幕は閉じた。

 弟はおれを見た途端、いきりたっている不良達を完全に意識の外に追いやったようだった。不良達が気の毒になるほど完璧な無視。

「兄ちゃん! どうしてこんなとこに」

「たまたまだよ。ほら、もう帰るぞ」

 不良達が何か叫んでいるが、弟の耳にはもう入っていない。さっきまで殺気立っていた顔には、朗らかな笑みしか無い。おれは少しほっとしながら、尻尾を振る忠犬のような弟を連れて、家路についた。

花言葉「鎮静」

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