表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/365

サギソウ

 毎晩、夢に女が出る。真っ白い着物を着て、綺麗な顔をしているが、生気がない。わたしが毎日職場へ向かう途中の、寺の傍からすっと現れて、何するでもなく俯いて佇んでいる。先週はそれだけの夢だった。

 それが今週に入ると、歩いているわたしを引き留めるような素振りをするようになった。別に怖くはない。ただなんとなく憐れをもよおす目つきと仕草で、無言のまま、わたしの心を惹きつける。何かしてやらねば、という気持ちになる。だが、どうすべきか分からぬまま、目が覚める。

 夢の外の世界で、寺の改築が始まったのを知った。朝から重機が動いて、古びた離れを取り壊している。なんとなく夢の中の女のことを思い出し、焦るような気になった。仕事が終わると早足で寺へと向かった。

 今日の工事は終わったらしく、重機が置き去りにされていた。離れは外壁を崩され、古風な和室が夕陽に照らされていた。

 そのすぐ近くの草叢に、白く品のある花がひっそりと咲いていた。このままにしておいては、きっと重機に踏み潰されてしまうだろう。その白さが夢の女を思い出させて、放っておけなくなった。わたしは寺の住職に話して道具を借り、花を離れた場所に植え替えてやった。

 その夜、女はそれまでの生気のなさが嘘だったかのように喜色をたたえ、にっこりと微笑んでお辞儀をし、去って行った。

 それからはもう、夢に出ない。

花言葉「夢でもあなたを想う」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ