ジギタリス
最初は植物だと思った。鈴のような形の花が茎に連なって、私の膝丈あたりまで伸びている。見渡すと、そこら一帯にたくさん生えていて、夜を連れてくる風に吹かれて、さわさわと揺れている。
どんな花だろう、と身を屈めて顔を近づけた時、鋭い声に制された。
「それに触るな」
驚いて顔を上げると、近所で変人と噂される男が険しい顔をして立っていた。
「それは花じゃない」
触らないように近づいてよく見ると、それは指だった。無数の指。何指かは分からないけれど、爪がついている。
「な、何なんですかこれ」
「分からない。でも、前にそれに触った女を見たことがある。……彼女は目の前で消えてしまった」
ぞっとして身を引いた。知らずに触っていたら。
「よく見ると、それぞれの指に特徴があるんだ」
興味を惹かれ、気味悪さを我慢してもう一度観察してみる。平べったい指、切り傷だらけの指、爪の欠けた指、ぷっくりした指。確かに千差万別だ。ひょっとすると全て違う人間の指なのか。
「この指は、仲間を呼んでいるのではないか」
男はそんなことを言う。やはり、どこかおかしいのかもしれない。その時、わたしは彼の指に光るリングを見つけた。
夜闇が迫ってくる。気持ち悪いし、見なかったことにして帰ろう。そう思って踵を返した時、肩を掴まれた。
「な、なんですか……」
「君も探してくれないか。これと同じ指輪をした指を。これが見える人は限られているみたいなんだ……お願いだ」
「は、放してください!」
思い切り腕を振り払うと、男はバランスを崩して、そのまま指の原に倒れ込んだ。
「あ……」
私と男の声が一瞬重なったが、すぐに私の声だけになった。瞬きの間に、指の原は消えていた。
あれは男を呼んでいたのだと気がついたのは、それから随分後になってからだ。




