ハス
市場で聖女を売っていたので購入した。その性質上、買い置きができないので、毎回、時機を計って購入しなくてはいけない。多少面倒ではあるが、正しい経を唱えられるのは、高僧以外には聖女しか無いので、それだけの手間は掛ける価値がある。
聖女は最初、掌に納まる花弁の形をしている。どこか手頃な鉢や樽、あれば池などに放り込んでやらねば、一日と保たない。うちには小さな井戸があるので、いつもそこに投げてやる。ついでに、前の聖女を桶で引き上げる。前の聖女はもう人の形をしていない。ぶるぶるとした寒天状になって、元々の花の大きさに縮んでいる。今放り込んだ聖女も、四日後にはこうなる。
井戸に放り込まれた聖女は、水に触れた途端、音を立てて開き、人の形を取る。女性の上半身の形で、上品な薄桃色の衣服を身に纏っているように見える。顔立ちも気高く、水面をじっと見つめるように視線を落としている。そして、経を唱え出す。
我々の国において、聖女は欠かせない。どの家の水場にも、四日ごとに新しい聖女が投げ込まれ、枯れた聖女は丁重に葬られる。聖女は生きている間、途絶えることなく経を唱え続ける。それが、我々の穢れを払ってくれるのだ。
誰も声高には言わないが、一度葬られた聖女は、良い食材にもなる。




