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ホタルブクロ

 今日も施設は明るくて、底抜けに頭の悪いガキどもの声が耳に障る。自分もそれらと殆ど変わらない年齢で、同じ境遇であるということは、ひとまず考えないでおく。

 オレはこいつらとは違う。自分の家族を皆殺しにした奴を慕って笑顔を向け、尻尾を振るなんて真似は、絶対にしない。

「勇者の兄ちゃんだー!」

 ガキのひとりが叫び、施設中の魔物や半獣がロビーに押し寄せる。まだ二十歳にもならないであろう勇者は胡散臭い笑みを振り撒き、施設の管理人と和やかに話をしている。自分が殺した魔物の、その子どもたちが自分に懐くのは、どんな気分がするんだろう。吐き気がする。

「ああ、今日もキミはご機嫌斜めだね」

 勇者は目敏く、柱の隅から窺っていたオレに気がつく。ご機嫌斜めなんてものじゃない、こいつを見ると、オレの腹の底から赤黒くて気持ちの悪いものが湧いてくるのだ。父さんから譲り受けた獣人の血が、こんな奴はその爪で裂いてしまえと囁くのだ。

 オレが低く唸ると、勇者は困ったように首を傾げる。

「キミにだけは、どうしても心を開いてもらえないんだなあ」

「当たり前だろ、周りの奴らがおかしいだけだ」

 オレの体の毛が逆立つのを見て、施設の管理人が割って入る。

「勇者様は、人間に悪事を働く魔物を倒しただけだ……その子どもたちには罪はないと、こうして君たちを保護するための施設まで作った、素晴らしいお方だぞ。謝りなさい」

 謝る気になどなれない。魔物を倒したのも、施設を作ったのも、そいつの勝手だ。オレはただ、ただ……。

 視界が涙の奥で揺れて、オレはその場から逃げた。勇者の顔がオレと同じように歪んだのが、ちらりと見えたような気がした。

花言葉「正義」

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