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カリブラコア

 喫煙所、というものが縮小されて久しい。煙草を吸う本人だけではなく、その周りにいる者にまで副流煙が悪さをするという情報が市井の人間にまで広く普及し、結果として、煙草を公共の場所で吸う人間は悪だという認識が、多くの人間に擦り込まれた。

「健康に悪いから街中で吸うなって言っておいて、販売はするんですから、世の中、矛盾だらけっすよね」

 しかも税率どんどん上がるし、と唇を尖らせる後輩は、腹立たしそうに煙を吐いた。

「そうだよな。しかし喫煙者もどんどん減って、肩身が狭いよ」

「絶滅危惧種っすよ、俺ら。もっと大事にして欲しいっすよね」

 妻や子どもに白い目で見られる私とは違い、独り者の彼は、肩身が狭いなどとは思わないようだ。その威勢の良さに思わず笑いが漏れる。

「極め付けは喫煙所の少なさですよ。なんすか、住んでるアパートの敷地内でも禁煙って、あの法令、頭おかしいんじゃないすか」

 彼が言う「法令」とは、この春に施行された通称『禁煙令』だ。正式にはもっと長たらしい名称だった筈だが、失念してしまった。簡単に言えば、国が指定した公共喫煙所以外では原則として禁煙である、とするもので、ただでさえ減少していた喫煙者の数が、これでぐっと減った。

「吸わせたくないなら売らなけりゃ良いんだ」

 彼が文句を言うのもわかる。まったくその通りだ。だが、利権とか何とか、色んなものが絡んでいるのだろうから、ただのサラリーマンである私には何とも言えない。

「まあ、でもさ。その法令のおかげで私も君も、休日でもここで必ず会ってお喋り出来るわけだし、禁煙令も悪いばかりでもないと、私は思うけどねえ」

 彼はポカンと、私を見つめた。

「え、どうしたの」

「……いや、何でもないっす。俺も、ここでこうして先輩とお話出来るのは嬉しいですよ」

 言いながら、彼は短くなった煙草を捨てるために、顔を背けた。

花言葉「あなたといると心が安らぐ」、またその花言葉の由来がタバコにまつわることから着想しました。

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