ゼラニウム
朝、玄関で会って、貴方が今日はどんな気分なのか、すかさず感じ取る。別々のクラスに分かれてから昼に再び会うまでに、貴方に自然に気づいてもらえるはずの、貴方の気分に合わせた香りを選んで身につける。お弁当の邪魔にならないくらいのものを、朝気づかなかったとしてもおかしくないくらいの薄さで、貴方に会うタイミングで一番よく香るように調整して。
「アオイ、今日はミントの香りなんだね。スッとしてて良いな」
当然だ、貴方のためにまとっているのだから。貴方が朝、赤い目をしていたのを私はよく見ていたから。気分を換えられる爽やかなミントを選ぶのは当然のことだ。
貴方はデザートのコンビニプリンを口に運びながら、私の名を呼ぶ。何でもない世間話を装って、友だちの話だと前置きして、昨日自分の身に起こったことを話す。彼氏が冷たいとか。メッセージの返信が来ないとか。飽きたと言われたとか。
それは酷いね。それは本当に酷いね。
「アオイが男の子なら良かったのに」
そうだね、私も本当にそう思う。心の底から、そう思うよ。
やがて貴方はスッキリした顔で立ち上がり、私と貴方だけの時間は終わる。貴方のための時間が終わる。
貴方と別れてから、私はトイレに駆け込んで、急いで香りを落とす。
ミントなんて嫌いだ。
香水なんて嫌いだ。
花言葉「なぐさめ」「癒し」




