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アスパラガス

 長らくこの家に仕えてまいりましたが、それも今日で終わりです。私のバージョンでは、この家の他の家電との同期も出来ず、ご主人様にご迷惑をおかけするだけ。最近では充電にも時間がかかるようになりましたし、ご主人様のお申し付けを実行するにも、前のようにスムーズにはいきません。

「それでは皆さま、ご機嫌よう」

 懐かしい工場の臭いのする回収ロボットに連れられて行こうというとき、まだ小さなお嬢様が、私の腰に抱きつきました。

「行かないで。ねえ、まだ一緒にいてよ」

「申し訳ございません、お嬢様。けれど、私などいなくなっても、何も変わりませんから、ご安心ください。すぐに、代わりの最新バージョンが届けられますから」

 お嬢様は、それでも離してくれません。回収ロボットも私も、無理に引き離すことは出来ず、立ち止まってしまいました。

 ご主人様……お嬢様のお母様が、言いました。

「あなたがいなくなっても何も変わらないなんて、そんなことはないわ。この子は寂しがるし、私だって話し相手を失う」

「けれども、それは」

「それは、新しいロボットにもできることなのかもしれない。けれど、今までそれをやってきたのは、あなたなのよ。今までそれをやってきたあなたの代わりには、誰もなれない」

 ご主人様は、お嬢様の小さな手を、そっと私から離しました。お嬢様は、静かに泣いていらっしゃいます。

「私たちは、あなたという大切な家族を、忘れない。それだけは覚えていて」

 ご主人様は、私の目を見て言いました。私は私の中に根付くプログラムに基づいて頷きながら、何にも基づかない、不可思議な発火を感じました。

 それは、或いはバグであったのかもしれません。けれども劣化した旧型ロボットの私には、それが、人間の言う「親愛」であるように、思われてならないのでした。

花言葉「何も変わらない」

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