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アルストロメリア

 女の子みたいな名前、と言われることの多いぼくは、それでもこの名前を気に入っている。尊敬する父さんがつけてくれたからだ。

「ぼくの名前は、父さんのお友達の名前からつけてくれたんでしょう」

 ぼくは何度目になるか知れない確認をする。父さんは何度同じことを尋ねられても、柔和な笑顔で、ぼくの名前の由来を話してくれる。父さんの親友だった、同僚の話を。

「由利は良いやつだったんだ。今、庭に咲いているあの花の新種も、由利が見つけたんだよ」

「ぼくも、由利さんみたいに凄い研究者になれるかな」

 小さな頃から変わらず特等席である父さんの膝に座って、ぼくは聞く。もう何度同じ質問をしたことか。父さんは中学生になった今でも、ぼくの頭を撫でて、微笑んでくれる。その暖かさが、ぼくは好きだ。

「ああ、ユリならなれるとも。一生懸命、勉強するんだよ」

 でも、いつからだろう。父さんがぼくを呼ぶとき、ぼくを透かして他の人を呼んでいるような気がする時が増えてきた。呼ぶ時だけじゃない、ぼくを見る時の眼差しも、ぼくじゃない誰かを重ねているような、そんな気がするのだ。


「由利さんに似てきたわね、あの子」

「うん……そうだな」

「由利さんが亡くなって、引き取り手の無いあの子をうちで育てることにしたのは良いけれど……あの子には一生、教えないつもりなの」

「……分からない、どうすべきなのか……」

 妻と、何度目になるか知れない会話をしながら、私はあの子のことを考えていた。仕草も声も、段々、由利に近づいていく。

 あの子は、由利ではない。けれど、引き取るにあたって彼と同じ名前をつけてしまった私が、本当にあの子と彼とを同一視していないと言えるだろうか。彼と共に歩んだ年月、交わした想いが、あの子に対して溢れてしまいそうになるのを、何度抑えつけたことか。

 事実を伝えたら、あの子は傷つくかも知れない。私のことを嫌うかも知れない。それは、想像するだけでも耐えがたい……私にとって二度目の喪失だ。

 ユリの寝顔を見ながら、私は自己嫌悪に呻いた。

花言葉「友情」

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