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フロックス

 もう長いこと、連絡を取っていなかった。確か最後に会ったのは、地球時間で数年前。宇宙標準時刻に合わせると、十年ほど前になる。

 あの日、彼女は長い髪を無重力空間に舞わせながら、私に手を振った。どんどん小さくなってゆく彼女の船から、涙の粒が届いたような気がした。

 メッセージひとつ送るだけでも、やたらと期間が空いてしまうのが、宇宙時代のコミュニケーションだ。光より速く情報を伝達する手段は、未だに発見されていない。何か約束したいのであれば、宇宙標準コミュニケーションマナーに則り、『離れる前に』約束を取り交わすべきなのだ。一度離れてしまえば、数十年のスパンでしか、連絡を取り合うことは出来ないのだから。

 彼女が遠い星に行ってしまってから、身についた習慣がある。日記だ。と言っても、毎日つけるものではない。ある直感に打たれた時に、それをメモするというものだ。例えば、5月1日……昨晩の頁にはこうある。

『女の子。黒髪。目がぱっちりしてて緑色が似合う』

 他の頁もこんな感じで、他の人が見ても何が何やらさっぱりだろう。私の備忘録、後で確認するための証拠に過ぎないのだから、それで良いのだ。

 今日、彼女が久しぶりにやって来て、私の直感が当たっていたことが分かった。

「久しぶり。元気してた?」

 長かった黒髪をばっさり切った彼女は、同じく黒髪で、目のぱっちりした、緑のワンピースがよく似合う女の子を連れていた。母親によく似て、賢そうだ。

「元気だったよ。ねえ、その子、雨の時期に生まれたでしょ」

「え、なんで分かるの?」

 それはね、私とあなたが魂で結ばれているからだよ。

 そんな言葉を飲み込んで、私は笑う。

 日記はもう捨ててしまおう、と心に決めながら。

花言葉「私たちは魂で結ばれている」

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