ヤマブキ
零落した元資産家の老人から、借金のカタにと譲られたのはひとりの娘だった。たしかにぞっとするほど美しい娘だが、俺が貸した大金には見合わない。突き返そうとすると、老人は不思議なことを言った。
「儂が金持ちになったのはその娘の力だ」
意味が分からない。問いただしたところ、その娘には金満の性質があり、大事にすればするほど、財産をもたらしてくれると言う。そんな馬鹿な話がある訳がない、と否定する俺に、老人は場にそぐわない嫌な笑みを浮かべた。
「借りた金なんかよりもよほど値打ちのある娘を、みすみす見逃すと言うわけか」
そこまで言われると、流石に気になってしまう。俺は半年だけ試してみることにして、娘を借り受けた。
娘は黒く長い髪を腰まで垂らし、凄味さえ感じるような、力のある目をしていた。借りて来た夜、俺の目を見据えて、小さな唇を開いた。
「私のことを大事になさってください。そうすれば福がやってきます。しかし私の意に反することをしたなら、逆に禍がやってくるでしょう」
胸のざわつきを抱えたままその晩は床につき、そう言えば老人はなぜ身を持ち崩したのだったかと考えた。その答えが出せぬまま、ひと月が過ぎ、ふた月が過ぎた。その間に、ちょっとした収入が何度か重なり、結果的にそれなりの額が懐に入ってきた。まさか、と思って娘を見ると、ただ静かにこちらを見返すばかりだ。
しかし、そのうちに娘が横柄になってきた。
「部屋が狭い。もっと広い部屋に移しなさい」
「も少し上等な着物を着せなさい」
増えた収入のことを思って諾々と従うが、その物言いは鼻につく。期限の半年が間近に迫った朝、娘が言った大したことのない注文が癇に障り、私はとうとう、その白い頬に手を上げた。
ぱちんという音が響き、娘は笑った。その表情に混乱していると、会社の取り仕切りを任せている男から電話がかかってきた。その内容を聞いて、私は全身から血の気が引いていくのを感じた。
花言葉「金運」




