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カルセオラリア

 駅の近くに住む老人が変わっているということは、その町に住む人間なら誰もが知っていた。彼はいつも古びて錆切った車椅子に、小学生高学年くらいの背丈はある大きな人形を乗せて、彷徨いていた。朝早くから公園、図書館、スーパーマーケットと周遊し、昼も夕も何も食べている様子がなかった。そして毎晩、決まった時刻に二人分の惣菜を買って帰宅するのだ。

 老人は昔からこの町に住んでいるらしい、とは皆知っていたが、彼がどんな人物で、どうして今はそんな風なのか、口にする人はいなかった。彼とすれ違う人は皆、彼が車椅子に乗せた人形に愛情深い口ぶりで何か話しかけていたと言う。老人のことを嫌悪したり、はたまたからかってやろうと思っていたりした人たちですら、その様子を見ると何もできず、ただ静かに目を逸らして道を開けるのだ。

 やがて、老人はひっそりと死んだ。家族もいなかった彼は、役所の取り決めに従って、簡単に葬られた。棺の中には、あの人形が入った。彼が愛した人形は、彼に寄り添って、炎の道行を共にした。

 いったい誰が人形を棺に入れようと提案したのか、それは最後まで誰にも分からなかった。普通なら、そんなことはしない筈なのだ。

 葬儀に携わった人の中には、人形が自分から棺の中に入っていったのを、確かに見たという者もいる。

花言葉「あなたを伴侶に」

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