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リムナンテス

 その日は、朝から何かおかしかった。前日の夜遅くまで喧嘩していた筈の両親がニコニコと食卓に着いているのも、テレビから流れるニュースキャスターの声が、やけに笑みを含んでいるのも。

「今日の、ふふ、天気ですが、くくっ……愉快な天気ですね。とても愉快です。楽しい一日を、目一杯楽しんでください」

 今日は定期試験の一日目だ、そんな愉快な気持ちになんてなれる筈がない。私はむすっとしたまま家を出た。愉快な天気なんて言うから快晴だろうと思ったら、なんと土砂降りだ。信じられない、と悪態をつきながらバス停まで走った。急いでいたからそのときは気がつかなかったけれど、バス車内で、周りの異様さに気がついた。乗客は全員ずぶ濡れでニコニコ笑っていて、車窓から見える歩行者も皆、全身に雨を浴びながら嬉しそうなのだ。あまつさえ、彼らは急ぐ様子すら見せない。

 この町の人たちは全員、私のように、あのニュースキャスターに騙されたのだろうか。しかし、それにしてもずぶ濡れで嬉しそうなのが解せない。

 学校に着くと、玄関から既に楽しげな挨拶の合唱が響いていた。いつもなら、眠たげな声がちらほら聴こえるだけなのに。教室に入ると、クラスメート全員が一様に満面の笑みで、こちらを向いて口を開いた。

「「「「「おはよう」」」」」

 ひえ、と息を呑んで後ずさったら、後ろに立っていた先生にぶつかった。

「す、すみませ」

「良いんだよ、愉快なことじゃあないか」

 先生の顔にも、教室に並んでいるのと同じ表情が浮かんでいる。具合が悪いので早退します、とか何とか口の中でもごもごした私の腕を、先生が掴む。

「どうして君は愉快じゃないんだ? それはいけないことだ」

 気がつけば、クラスメートが私を取り囲んでいる。みんな心底嬉しそうな楽しそうな「愉快な」顔で、詰め寄ってくる。私を囲む輪が狭まる。私は「愉快」に押し潰されてゆく。

花言葉「愉快な気分」

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